名プロデューサー逝く トミー・リピューマ

名前を聞いてアルバムのカラーを想起させるプロデューサーはそんなに多くない。先日他界したトミー・リピューマはそんなプロデューサーだった。

名作をたくさん残しているが、個人的には70年代のクロスオーバー作品に思い入れがある。彼の作品では従来のクロスオーバー作品にエスニック色を加味してプロデュースしたものが特にいい。エスニック色を加味することによって、作品が若干緩い感じになり、聞いていて心地が良い音楽ができる。あ、ここで使うクロスオーバーというタームはフュージョンやライトジャズと置き換えてもいい。個人的にはNHK-FMの名番組、クロスオーバーイレブンでかかりそうな、演奏がしっかりしていて、かつ軽やかな音楽をイメージして使っている。

たとえばニック・デカロの名作イタリアン・グラフィティのアンダー・ザ・ジャマイカン・ムーン。ゆっくりしたボッサ調のメロディーにストリングが絡み、自然と夜の海を想像してしまうような、聞いていてとても心地がいい曲だ。日本ではこれぞAOR!とカテゴライズされがちだが、ジャズよりのクロスオーバー的な演奏に歌詞が付いたという感じが当たっている。マイケル・フランクスのスリーピング・ジプシーに収録されているアントニオの歌もボッサ・テイストの名曲でデカロの曲と共通する浮遊感を伴っている。スリーピング・ジプシーの演奏はSTUFF、イタリアン・グラフティはデビット・T・ウォーカーやハービー・メイソンを従えたクロスオーバー界の名手たち。STUFFのデビュー作にもプロデューサーとして名を連ねており、個人的に聴きこんだ名盤にトミー・リピューマの名前をよく見たという印象を持っている。

ジョージ・ベンソンのブリージンもリピューマ作品だ。B・ウォマック作曲、共演のタイトル曲のほかにThis Masquarade のキラーチューンが入ったクロスオーバー界のモンスターアルバム。こちらもどこか南の島を連想させる緩いエスニック色に彩られ(個人的な感想)、特にタイトル曲は鈴木英人のイラストをそのままメロディーにしちゃいました、という感じの爽やかさが耳から離れない。フルムーンの名作ファーストもリピューマ作。その繋がりででニール・ラーセンのリーダー作ジャングル・フィーバーをプロデュースしている。冒頭のサドゥン・サンバだけでも本作は聞く価値ありと思っているのだが、アルバム全体を通してもやはり南国を意識したクロスオーバーの名作といっていいだろう。ベース:ウィリー・ウィークス、ドラムス:アンディ・ニューマーク、パーカッション:ラルフ・マクドナルド、テナーサックス:マイケル・ブレッカー、トランペット:ジェリー・ヘイなど鉄壁のバックを従えた演奏は非常にタイト。本家フルムーンよりもさらに演奏が技巧派よりなものに仕上がっている。

ジョアン・ジルベルトの77年の作品アモローゾでリピューマはボサノバの名手をプロデュースし和洋折衷ならぬ伯米折衷の名作をたたき出した。ジョアンの初期の名作はそのままボサノバの歴史と言っても過言ではないけれど、そこにアメリカ人のカラーをリピューマが混ぜ込むことで逆にエスニック色が強調された。一曲目にガーシュインのソワンダフルを持ってきていきなりつかみオッケー。そこから怒涛のジョアンワールドに浸らせる。

80年代以降はマイルスのTUTUとかドクター・ジョンがデューク・エリントンに捧げたデューク・エレガントとかEBTGとかアズテック・カメラなんかもプロデュースしているが、70年代のクロスオーバーの名作群を超えることはできなかった。

去年のレオン・ラッセルの遺作となるライフ・ジャーニーを手掛け、本人の遺作となるのはダイアン・クロールの次作『ターン・アップ・ザ・クワイエット』とのこと。ご冥福をお祈りします。

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