備忘録 4度目の宇ち入り~立石 宇ち多゛

 

上野から浅草を抜け、押上、曳舟と歩き、荒川と綾瀬川を渡ると葛飾区に入る。10キロ弱の道のりをプラプラ歩いた。最終目的地は京成立石の宇ち多゛だ。こう書いて“うちだ”と読み、一部では宇ち多゛で傾けることを討入りと呼んでいる。10年近く前に当時青砥に住んでいた会社の先輩に連れられ初来店、それから2度一人で訪問、今回は4度目となる宇ち入りだ。

 

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14時開店だが、12時半から並んだ。すでに15人近い常連と思しきおじさんたちが並びながら、雑談をしている。自分も十分おじさんなのだが、自分よりも一まわり上の世代、定年退職者くらいの面々が多いと見受けた。「気づいたら梅5杯もいっちゃってさぁ、昨日は2,800円も使っちゃったよ」など、連荘組もいるらしい。常連が1時間半前から、楽し気に開店を待つ店はなかなかないのでは。

 

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2時15分の開店時には、70~80人くらいが待っていた。1巡目で入れるお客には、店主が先にどこのテーブルに着くように指示がある。扉が開き、席に着くなり「煮込み骨」「タン赤酢」「ショウビン」「大根しょうが、酢で」「梅」などと暗号めいた大声が響く。これらは宇ち多゛式注文のプロトコルで、予備知識なしだと何が何だかちんぷんかんぷんであろう。壁のメニューは「モツ」と書いてあるだけだ。せっかちなおじさんたちが我先にという塩梅で注文するので怒気すら感じさせる。

 

 

自分も「レバ、シロ、カシラ塩で。煮込みにボイル(ボイルレバー)と生ハツ。ショウビンでとりあえず」と予習してきたとおりに注文。この店は大衆酒場の天然記念物的な存在としてファンが多く、店名で検索すると「宇ち多゛注文の仕方」なる特設サイトが複数出てくる。自分もそれらの情報を事前に調べ、スムーズにやり取りできたが、隣の初来店と思しき中年ご夫婦は「注文の仕方わかんねーよ」と半ば切れ気味だった。常連さんはそのスムーズな暗号トークが鼻高々という感じで、「アブラよく焼き辛めで」などとサクサクオーダーしている。

 

 

基本的には串2本で200円、煮込み200円、お新香200円と食べ物は皿の数×200円、飲み物は自己申告制。今回はビール小瓶1本と梅割り3杯なので「ショウビンと梅3ね」と申告し、皿を数え〆て2,600円。この店のアベレージよりもかなり多く飲食したが、滅多に来れないのでこれでいいのだ。

 

 

90分以上並んで滞在時間45分。自分より前にいた常連さんは30分で出て行っていた。なぜそれほど宇ち多゛は支持されるのか、ちょっと考えてみた。一つは肉の質がいいこと、二つめには明朗会計で安いこと、三つ目には排他的な雰囲気、ということではないかと推察する。ウディ・アレンの映画アニー・ホールでマルクス・ブラザーズの「私を入れるようなクラブには入りたくない~”I would never wanna belong to any club that would have someone like me for a member.”」を引用しているが、客とはそんなもんだ。「いらっしゃいませ~お客様の笑顔は私たちの生きがいです」と店員が口にするようなちょっと気持ち悪い居酒屋とは真逆のベクトルが働く宇ち多゛。剃髪仏頂面店員から「何飲む?何頼む?」とおもむろに聞かれ、勝手を知らない一見さんがたじろいでも「決まったら呼んで」とあくまでハードルを下げない。そのサドマゾ関係が客と店員以上の連帯感を生み、はまるとやめられないという連鎖が生じる。スムーズに注文ができるようになると、あたかも会員制クラブの一員にになれたような喜びがあるのだ。

 

 

店を出るとこれまた京成立石一番の行列店、栄寿司のカウンターが空いている。昼時にはぐるっと待ち人が店を囲んでいた。満腹だったがこれも天の思し召しと呼びこまれ、マグロ赤身、中トロ、サバ、イワシ、シマアジ、アナゴ、イカとビールを頼み20分で御愛想。こちらも2,600円と、5,200円で立石の昼のみを満喫したのであった。

 

 

途中スカイツリーを横目に、そういえば高校サッカー部の後輩が稲荷ずしの看板継いだと聞いたな、と寄ってみた押上の味吟は臨時休業。また出直すとしよう。

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