先週、千葉の矢切方面で仕事あり、帰りに京成線で都心方面に戻る途中立石を通った。これは寄らないわけにはいかないというわけで夕方に「立石の関所・江戸っ子」に入った。4月に行った宇ち多“と人気を分かつ店なので普段は行列ができているが、雨だったので待たずに入れてくれた。

カウンターに陣取りボールを注文。ボールというのはめちゃめちゃ濃い焼酎ハイボールのこと。酒が薄まらないように氷が入っていないけれど「ボール、氷2個お願い」など入れてもらうこともできる。カウンター越しに湯気が立ち上る巨大な雪平鍋が鎮座しているのを見つけ、まずは名物の煮込みを頼む。大きな器に入った煮込みは白みそ仕立てで豆腐の塊が入っていた。客の8割は注文するであろうこの煮込み、甘さ控えめであっさり味が大変美味。すぐにシロ、レバ、マゼタレカラシと頼んだ。焼き物は原則4本一組だが、半分別の肉種を選ぶこともできる。焼き物がなかなか来ないのでタンサシでも頂くことにする。軽くゆでた豚タンを醤油とおろしにんにくとネギを薬味にして食べる。ものすごくおいしい。カウンター席はおひとり様の常連さんが半分くらいを占めて、黙々と酒を飲んでいる。ただ、宇ち多“のような緊張感はなく、開放的な雰囲気がある。

しばらくして隣に60歳前後と思しき夫婦が座った。「久々に来たけど全然混んでいないじゃない。とりあえずボールとウーロン杯と煮込み頂戴」と奥さんがカウンター越しのママに声をかける。「久々ったって、前回からひと月経ってないじゃないの。今日は雨なので出足が鈍いのよ」とママ。「帰りに煮込み2人前と白とカシラ持って帰るからお願いね」と旦那さん。煮込みのお土産はビニール袋に入れられるらしく、帰り際ビニール袋を渡されているお客さんを見かけた。
焼き物を忘れられていたようなのでもう一度注文し、さっぱりしたいと新物の谷中ショウガを注文した。白味噌につけて食べるのだが、辛くてうまい。レバとカシラも無事運ばれ、谷中ショウガと交互に口に運ぶ。ここの焼き物はでかいのですぐに腹いっぱいになってしまう。種類をたくさん食べられないのが玉にきずなのだが、味は最高。

隣の奥さんのほうが「じゃ、私先に帰るわね。あんまり飲みすぎるんじゃないわよ」と旦那に千円札数枚を握らせて、土産の煮込みと焼き物を抱えて立ち去った。そのころには自分もボール3杯空にし、気持ちよく酔いが回っており、ついつい隣のお父さんに声をかけてしまった。「おうち近いのですか?奥さんが煮込みを土産に持ち帰ってましたね」お父さんもご機嫌で「そうそう。すぐ近くなのさー。ここはよく来るの。35年くらい通ってるよ」と。そこから酔っ払い同士の会話がしばらく続いた。記憶が定まらないところもあるがお父さんは▽近くの教習所の大型特別車両(クレーン)の先生▽田舎は沖縄。翁長知事大好き▽クレーンの教習のため何度か来札した▽娘が新小岩で飲み屋をやっている、など他愛ない話をした。
4杯目のボールを頼もうとすると、ママが「お客さん、もうボール3杯ね。酔っ払てるようだしそろそろやめておいたら」と。もう少し飲みたかったが「そうですね。そろそろやめておきます」と勘定を済ませ「じゃ、また」と店を出ようとすると、お父さんが「夜宛てなしでしょ。なんか話ができてうれしくてさー。これから新小岩の娘のところに行きましょ。ね、いいでしょ」と沖縄の抑揚がついた人懐っこい物言いで誘ってきた。こっちも酔っ払っているのと人好きするお父さんのキャラに魅かれ「いいっすね。ぜひお供させてください」とタクシーに乗り込んだ。新小岩まではツーメーターくらいで到着し、お父さんに促されるまま「カラオケ居酒屋なおちゃん」に入った。薄暗い店には29歳(とお父さんが言ってた)になる娘のなおちゃんと常連客2人が談笑していた。「またお父さん無理やりお客さん連れてきたでしょ、もう。ごめんなさいね~」となおちゃん。「いやいやそんなことはないです。私が無理やりついてきたんです」と私。「まぁまぁいいからさー。泡盛でも呑んでさー。さぁ座って座って。なんくるないさぁー」とおもむろにコップ一杯の泡盛を注がれた。喉にカッと焼き付いたのは覚えているが、それ以降の記憶が途絶えている。無事に宿で目を覚ませたところを見ると、何とか戻ってきたのだろう。財布を確認するとそこそこお金も無くなっているので飲み逃げしたようでもなさそうだ。
立石のアーケードの線路を挟んだ逆側の再開の計画が進み、江戸っ子もそのうち姿を消すとのうわさを耳にした。再開発を止めることはできないだろうけれど、よそ者ながら寂しい気持ちになってしまう。
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