また巨星が散った。
アレサ・フランクリンの歌を始めて聴いたのは1985年のFreeway of Love。MTVだったかベストヒットUSAだったか、とにかくPVを見た。後に知ることとなる、ソウル・クイーンの面影をひそめ、当時のポップソングのプロデュースになぞった軽い曲で「腹から声が出てる」くらいにしか感じていなかった。同時期のJBのLiving in Americaも「曲が軽いけど、歌が凄い」と同様の印象を受けた。70年代後半にディスコ・ミュージックが台頭し「ソウルミュージックが死んだ」と言われ、80年代はソウルシンガー受難の時代と言われていた。そんなタイミングの作品がアレサとの初邂逅だった。

87年に初めて後追いでブルース・ブラザーズを見た。マット・マーフィー扮するマーフィーズ・ソウフードの店主と女将のアレサ。ギター弾きでもあるマットにエルウッド兄弟がレストランを見捨て売れないバンドに再加入するよう説得している時に、アレサが「Think~考え直せ!」をぶっ放す。店の前がシカゴのマクスウェルストリートという設定で、ジョン・リー・フッカーが路上でBoom Boomを弾いているという、ブルース・ファン垂涎のシチュエーションとなっており、映画のハイライトの一つだ。

ブルースブラザース2000で夫婦はベンツのディーラーに転身し成功している設定。またしてもバンド再結成の誘いにアレサの怒りを買い、今度はアレサの代表曲「Respect~敬意を払え!」が炸裂とお決まりのオチ。そのマット・マーフィーも今年6月に88歳で往生。2001年の札幌市民会館ではブルースブラザーズバンドの一員として素晴らしい演奏を聴かせてくれていた。もうこのおしどり夫婦姿が見られないのは悲しい。

アレサの黄金期は当然アトランティックのI never loved a man(1967)でありLady Soul(1968)だ。これらを超える女性ソウルシンガーが手掛ける作品は未来永劫出てこないと断言できるほど素晴らしいアルバムたちである。それは歌手たるアレサの歌唱力のみならず、ジェリー・ウェクスラーのプロデュース、スプーナー・オールダムはじめ南部気鋭の強力なバックの布陣、ソウル・ミュージック熟成期の時代感すべての条件が奇跡的に一致することはもう二度とないという意味。ローリングストーン誌が選ぶ20世紀の偉大な歌手の1位にアレサが選ばれているし、公民権運動と黒人音楽について記した名著「リズム&ブルースの死(ジョージ・ネルソン著)」では「本物のソウル音楽を知りたければ、アレサを聴け」との記述がある。
ソウル・ミュージックが公民権運動と連動していた65年頃~75年時代に発表された、特にニュー・ソウルと括られる作品郡は未だに光を放ち、アルバムが売れている。筆頭にあげられるのはマービン・ゲイのWhat’s going on(1971)、でありスティービー・ワンダーのInnervisions(1974)以降3部作であり、カーティス・メイフィールドのThere’s no place like America today(1975)であり、Donny HathawayのLive(1972)なんかである。アルバムの中に「黒人よ誇りを持て」などのメッセージが込められた曲が数曲ちりばめられている場合が多い。80年代以降ヒップホップでそれらメッセージ性が強いトラックも頻繁にサンプリングされ、結果として廃れずにそれらの音楽が脈々と生き続けていることは素晴らしいことだ。アレサはガチのニューソウル的アプローチのアルバムを世に送らなかったが、1972年の作品Young, Gifted and Blackは当時の時代感をそこはかとなく感じさせる作品。「(私は)若くて、才能豊かで、そして黒人」と訳されるアルバムタイトルはNina Simoneが歌った曲に由来し、同アルバムでアレサも歌っている。アルバムの中ではRock Steadyが好きだ。メンフィス系オールドスクール的なソウル感を残しつつ、NY名うてのセッションミュージシャンを起用しGroove感を追求した名作。パーソネルを見るだけで、どれだけ贅沢な作品かということがわかる。ギター、ベース、ピアノ、ドラムはグルーブ感の人間国宝みたいな人たちの集団で、さらにすごいのはプロデューサーの面々。
Aretha Franklin – lead vocals, piano
Donny Hathaway – electric piano, organ
Bernard Purdie – drums
Cornell Dupree – guitar
Richard Tee – organ
Chuck Rainey – bass guitar
The Sweethearts of Soul
Robert Popwell, Dr. John – percussion
The Memphis Horns
Wayne Jackson – trumpet
Andrew Love – tenor saxophone
Gene Paul – engineer
Jerry Wexler – production
Tom Dowd – horn arrangement, production
Arif Mardin – production

今朝はアレサの訃報に触れ、西28丁目駅から京プラ前までバスに揺られながら、ボリュームマックスのヘッドフォンで聴き、バスの揺れだか小刻みに踊ってるんだかよくわからない感じで通勤したのだった。はたから見れば、痙攣したオジサンに見えていたかもしれない。合掌。
コメントを残す