備忘録 MOMOFUKU=安藤百福

特集記事に目が行き、久々に週刊ではない文春を手に取った。記事はまぁ、フムフムという感じで、移民受け入れ推進派と反対派がそれぞれ論陣を張り、甲論乙駁議論を戦わせ結論は読者にオマカセという常套的なオチ。今週の週刊新潮も巻頭特集で移民問題を扱い、こちらはのっけから移民政策を愚策と断罪し「反移民受け入れの世論」をあおる書きぶりだ。双方とも「外国人材受け入れ拡大」に関する政府の改正案骨子が新内閣発足後にちらつかされたことを受けてのリアクション報道。

移民問題ではスイスの作家マックス・フリッシュの「スイス経済は労働者を呼んだのに、来たのは人間であった」(Die schweizer Wirtschaft hat Arbeitskräfte gerufen,und es kamen Menschen←これ正しいかは不明)の引用をよく目にするが、安倍政権下の政府案は外国人の滞在期限を厳しく管理さえしていれば、来るのは人間ではなく労働力だ、といわんばかりでいまいちその思想に親近感がわかない。

文春ではその他、麻生幾のテロ対策の話、成毛真のアマゾンの話とオモシロ記事のみ掻い摘んで読み進めた。

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読み進め紙面中ほどに東海林さだおの「僕とインスタントラーメンの60年」なる論文?を見つけ、小躍りした。酒屋を営む東海林家が世界初の即席めん「日清チキンラーメン」発売当初から店に出し、ビンボー学生時代には3食チキンラーメンを喰らう生活を続け、成人し日清食品創業者=チキンラーメンの親である安藤百福とひょんなことで邂逅するくだりを紹介。日本の若者の少市民化は即席めんについてくる油脂だの調味料だのシナチクだのの小分け袋と密接な関係があるとの持論を展開させ、最後には「小物ばかりの国ニッポン。それは60年間、日本の青少年が即席めんの小袋を小器用に千切ってばかりいたせいなのだ。ケチ臭い行為を60年間続けてきたばかりに、みんなケチくさい人間になってしまったのだ」と結んでいる。ここだけ紹介したところでこの論文の良さは伝わりにくいが、ユヴァル・ノア・ハラリのサピエンス全史にも劣らぬ洞察力を見せた素晴らしい作品であった。80年代後半に週刊朝日で連載されていた「あれも食いたいこれも食いたい(のちの『○○の丸かじり』シリーズ)」はわが枕頭の書であるが、傘寿を迎えこのユーモアの爆発力を備えた東海林こそノーベル文学賞でも紫綬褒章でも人間国宝でもなんでも与えてしまえと個人的には強く思う。(が、「ビールの最良の『あて』は串カツである」という東海林が断固主張する持論には承服しかねる)

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今月から始まったNHK連続テレビ小説『まんぷく』では、長谷川博己が安藤百福をモデルとした立花萬平を演じている。再び注目を集める百福だが、その賞賛はドメスティックなものに限られたことではない。2007年に96歳で安藤さんが亡くなった際、米ニューヨーク・タイムズ紙が「ミスター・ヌードル」と題した社説を掲載し、こう結んでいる。Ramen noodles have earned Mr. Ando an eternal place in the pantheon of human progress. Teach a man to fish, and you feed him for a lifetime. Give him ramen noodles, and you don’t have to teach him anything.百福は即席めんを発明したことで人類発展神堂に永遠の席を与えられた。人は「魚の釣り方を教えれば、一生生きていける」という。百福の場合「ラーメンさえあれば、彼に教えるものは何もない」というところか。

百福つながりでは洋楽好きにとって2008年発売のエルビス・コステロのアルバムMOMOFUKUが印象深い。安藤百福へのオマージュとして捧げられ、ジャケットの末尾には「Remembering Momofuku Ando(1910-2007). He fed those who study(故安藤百福氏を想う、彼は学ぶ者を養った)」の文章が添えられている。インスタントラーメンは洋の東西を問わず、お金がない学生の味方だったことを讃えているのであろう。ジャケットはモモのイラスト。しばらくぶりに「ジ・インポスターズ」を率いて80年代前半のひりひりした痩せコステロ時代、一ひねりさせたパブロックの肌ざわりを思い出させる作品となった本作を自分を含む往年のファンは大歓迎した。コステロ当人は「やることといったら、お湯をかけることくらいだった」と美味しい即席めんが簡単にできるように、自分たちの音楽も旧知のバンド仲間とだとわけなくできるものさ、とダブルミーニングのコメントを残している。

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当初は気合を入れて文春と週間新潮の移民問題に関する世論誘導型記事に一石投じる項にするつもりだったが、すっかり百福の話になってしまった。久々にチキンラーメンをすすってみたいと思った秋の夜長だったのだ。

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