先週三鷹市役所で仕事があり、その帰りに「吉祥寺にでも出て猟盤を」と中央線に乗った。キース・ジャレットのSomewhere Before の録音メンバーを調べるためググった時に「キース・ジャレットのCD買ったら志村けんの声が入ってた。返品したい。」の文言を見つけ、ツボにはまり電車の中で笑いをこらえるのに必死だった。わかる方は分かるかもしれません、「星影のステラ」ライブとか横にバカ殿がいるとしか思えない瞬間など。以前にも「北海道の人って鮭のことシャケっていうけど、鱒のことはマシュっていうの?」のキラー大喜利的な台詞がツボに入り、大変なことになったことがあるけれど、こういうのは本当に困る。
閑話休題
で、ディスク・ユニオン吉祥寺ではなかなかの獲物があり、ほくほくして宿に戻った。嬉しかったのはエサ箱の中にVladimir ShafranovのWhite NightsとLive at Groovyの2枚(しかも1,000円で!)を見つけたこと。両方とも大阪の澤野工房という日本のニッチなレーベルが復刻させるまで、特に前者は「評論家寺島靖国が90年代名盤の一枚として大きくとりあげ、まさにピアノファン必聴のアルバム」と煽られ1枚数万円のプレ値がついていたことで有名な盤。1999年頃に勤め先の先輩から本作音源を頂いて気に入って聴いてはいたのだが、やはりCDが欲しかった。Live at Groovyは1981年にフィンランドのジャズクラブで行われたライブ録音だが、White Nightsを弾くShafranovとは別人と思えるほどリラックス感が漂う好盤となっている。


猟盤中ロシア・ジャズに意識が向いたことには伏線があった。先月、北海道と露極東サハリン州が友好・経済協力提携を結び20周年を迎えるのを記念して開かれた道庁主催のIgor Butmanのコンサートを見てしまったのだ。道庁の国際交流事業ということで、務め先から動員がかかりただで行くことになったのだが、ロシアジャズの巨匠といわれるブットマンを知らなかった私は「聴いたことないし、あのぼってりとした風体ならサム・テイラー的な情に竿をさす音が関の山かねぇ」などど訝しがっていた。

ところがどっこい、コンサートは素晴らしいのひと言。ブットマンのテナーは運指が正確で速く、そしてスウィング感がある。ちょっとくどく、くさいと感じさせる場面もあったが、あれだけ吹いてくれれば文句は言えまい。吹きまくるときのブットマンはパーカーを思わせる力強いフレーズを披露しで会場を沸かせていた。ピアノ、ベース、ドラムのメンバーもそれぞれ腕利きが揃っており、中でも盲目のピアニストOleg Akkuratovが凄かった。ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」(←ロシアでは一番知られた日本の曲とか)を弾きながら日本語で淀みなく歌い、メロディが似ている「悲しき天使(Those were the days)」をひとりフェイドインフェイドアウトして歌い上げていた。これまた歌もピアノもスウィンギーで近くに座っていたファブリーチニコフ・アンドレイ在札幌ロシア連邦総領事も大きな体を揺らしながら喝采を送っていた。キャラバンなどスタンダード曲も良かったのだが、オリジナル曲(特にProphesy ) が朴訥かつ耽美的で耳に残った。そんでもって勢い余ってアルバムを買ってしまった、というのがロシアジャズに目が向いたきっかけだったのだ。

それにしても近所のちえりあで、あんなクオリティが高いジャズが聴けるとは。年に何度か東京Blue NoteやBillboard東京に行くが、最近では本ライブがダントツで一番良かった。ロバート・グラスパーあたりには、ブットマンの爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。会場にいた400人は、あの演奏に巡り合うことができ間違いなく幸運だったといえよう。
Oleg Akkuratov Ft. Igor Butman – The Memory of Carlie Parker


JAZZはアメリカ=西側を象徴する音楽。ソ連時代は「今日彼はジャズを演奏し、明日母国を売る」とJAZZマンは後ろ指を指されていたとの記述を目にしたことがある。ペレストロイカ~ソ連崩壊から30年弱が経過し、ジャズはロシアで市民権を得ているようで感慨深い。
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