備忘録 廉価版CD Vs. 廉価版レコード 再生比較

昨年買ったアンプにPhono端子があることに今さらながら気づき、実家にあったレコードプレーヤーを持ち込んでシステムに繋げてみた。プレーヤーは高校生の時に親に買ってもらったケンウッドのロキシーについていたもの。今でもそこそこの音質で再生してくれる。

オーディオマニアの方々がよくやっている高音質CD vs. 高音質アナログ的な視聴は、盤もなければ鳴らす環境もない。よって、昔エサ箱(店頭に置いてある客引き用の安いレコード)から仕入れたレコード数枚と同タイトルのCDの音質、もとい、音楽を聴く行為を比較してみた。

レコードを鳴らす一連の行動は、それだけで儀式的な楽しさがある。鳴らす前にコーヒーの一杯でも淹れようか、或いはウィスキーをグラスに注いでからにしようかという気にさえなる。昔は気になったパチパチいうノイズも今となっては、逆に味わい深さを演出している印象だ。何より、ジャケがでかいのでジャケにかかれている情報が読める、楽しめる。他方でCDは扱いが簡単で、ノイズが無いが、音の滋味に乏しい感じもし、ジャケットが小さいのが残念。昨今のアナログ再評価で、CDは散々割を食っている存在になりつつある印象がある。

余り参考にならない音対決。繰り返すが、あくまでローファイの道具で行う廉価版のアナログとデジタルの比較だ。しかも自分の耳すら怪しいもので、一般的に録音が素晴らしいと言われているお墨付きの盤の音よりも、80年代に出てきた音圧が低い録音の方が好みだったりもする。ただ、アナログもCDも所有しているということは、それらの作品に対してはかなりの思い入れがあるということでもある。

最初はボスのネブラスカだ。ネブラスカはボスが1982年に発表した6作目のスタジオ・アルバム。デモ・テープとして録音された音源でEストリート・バンド、その他の外部プレイヤーは参加していない。ボスの作品で一番よく聴いたのがトンネル・オブ・ラブでネブラスカはその次によく聴いてきた。全編ほぼアコギ一本の引き語り。音源が高いダイナミックレンジを要しないことから、アナログ媒体が映えるアルバムでもある。案の定、このアルバムに関してはレコードの方がイキフン(雰囲気ですな)をよく伝えきれている。針を落とし、ぱちぱちとノイズを潜り抜けA面一曲目のタイトル曲が流れる。それほど強くないアルペジオのイントロから力の抜けたボスの声。

バトンを回しながら

彼女は前庭の芝生の上に立っていた

俺と彼女はドライブに出かけ

10人の関係ない人間を殺した

——-

この世には理由もなくただ卑劣な行為というものがあるんだよ

とぼそぼそといった風情でその曲が幕を閉じる。アルバム全体がマイナーコードで埋め尽くされ、陰鬱なトーンが支配的だが何故か希望を感じる作品である。

ネブラスカに関して、軍配はレコードに上がるだろう。

ロック畑からもう一枚。これまた若いころよく聴いたトム・ペティ1979年の出世作、邦題「破壊」だ。一曲目のRefugeeからトム・ペティ・サウンドを聴かせてくれる。古い洋楽雑誌には「これぞアメリカン・ロックの王道」などと評されていたけれど、その表現には違和感がある。どちらかと云えばその時代的にペティがやっていたことはオルタナの流れだった。紛れもないByrds直系の音作りなんだけれども、フォークに寄りすぎない絶妙のところで寸止めしつつ、どこかパンクのいかがわしさを匂わせていた(特に最初の2作)。後年ペティがロジャー・マッギンをプロデュースしたりと親孝行もしていたのが微笑ましい。

A面一曲目のRefugeeからドライブ感強いギターサウンドが炸裂。PVではペティが抱えるVOXの12弦ギターが印象的だった。アナログ、CD共にそん色なく再現。ずーっと差異を感じられずに再生してきたところ、B面最後のルイジアナ・レインを聴くとレコードの方がなぜかよく聴こえ。これは、楽曲の音密度が低くプロデュースされていることが関係しているように感じるが、理由は不明だ。

アルバム全体で42分くらい、これくらいのボリュームであればA面B面通しで聴けるCDでも問題ない。

次は、これまた昔よく聴いたボビー・ウォマックのポエット。81年の作品。私的80年代ソウルベスト5に入る名盤。なんといっても聴きどころはB面の3曲。6. Games、7. If You Think You’re Lonely Now、8. Where Do We Go From Here。特に7のDavid T. Walkerのギターはジョー・サンプルの虹の楽園での客演と双璧を成す名演。ベースにネイザン・イースト、ドラムにジェイムス・ギャドソンと名手を従える。楽曲よし、演奏よし、ウォマックの歌よしと三方よしなのだ。

B面から聴いてみた。ムムム。これはレコードがおかしい。音が割れるといおうか、プレッシングの段階でミスがあるような。音質に関して悪名高きBeverley Glennレーベルのレコード。これは圧倒的にCDの方が良い。CDはドラム、ギター、ボーカルをダイナミックレンジ豊かに表現されている。これはCD圧勝だ。

次はクルセイダースのスクラッチ。1974年のライブ盤。これもB面が秀逸。再生回数はB面が圧倒的に多い。特に「俺とジョー(サンプルは)幼稚園の頃から、俺らのママはその前からの友達さ。そうだろジョー」とWay Back Home のウェイン・ヘンダーソンによる冒頭のメンバー紹介がいいんだよね~。So Far Awayでのカールトンのギターソロも、WayBack Home のサンプルのエレピの音も脳裏に刻まれている。このアルバムこそ、B面を聴くという儀式を誘う作品。コーヒーを入れたり酒を飲んだりと嗜好品と併せて立体的な音楽鑑賞を誘導してくれる。「よっこいしょ」とレコードを袋から出してターンテーブルに乗っける作業が伴うのが面倒ではない。音を聞くまでなくアナログが圧勝、そんなアルバムだ。

最後に季節感が伴わないけれど、佐野元春のクリスマス・タイム・イン・ブルー。1985年の作品。アナログは12インチシングルの高音質盤。音の比較で言えば、こちらはCDもアナログもどちらかに甲乙つけられるほどの差は感じられない。レコードにしてはレコード感が薄く、よりCDに近いカチッとした音を出している。でもやっぱり、牧野良幸の最高のイラスト(版画)を愉しむにはCDのサイズではもったいない。

総じて直観的な印象で言うとアナログは音が全体的に太い。その代りある音域の表現を省略しているような印象を受ける。翻ってCDは音がクリアに聞こえる一方で迫力に欠ける部分もあるといえばあるかもしれない。但し、気になるレベルではないだろう。CDでは持っていないが、こないだHard OffでみつけたHampton HowesのThe Séanceなんぞは、他のHowesのアルバム、たとえばTrio1のCDよりも音が格段に良い。同タイトルのCDの音の方も良いのかもしれないけれど、ピアノの粘り腰が素晴らしい。是非CDと比較してみたいと思っている。

アナログの良さは、音質そのものというよりは、アナログ再生に伴う一連の所作、イキフン、もっというと手のかかる作業行程、そのこと自体に大きな付加価値があるように思える。CDよりも扱いに慎重さを要し、保存するにも場所を取り、それゆえ「音楽を大切にしている感」が醸成される。気合を入れなければ聴く気にならない。勿論、最高品質のアナログ音響だと音質そのものもデジタルを凌駕する音源もあるのかもしれないが、うちのエントリーレベル以下のシステムでは音質の差は認められるものの、それは嗜好の差以上のものを感じない。

一方ではデジタル音源管理の恩恵も無視はできない。CD含むデジタル音源が無ければ数万曲の音源を一括管理するなんぞ到底無理なはなしだ。I-tunesからリッピングしている音源をソートしたり、検索したりする機能は何物にも代えがたい利便性がある。たとえばWhiskeyと検索すると忽ち30曲近くWhiskeyをタイトルに含む曲が並び、プレイリストを作成。デバイスに移し、酒飲む時間にランダムプレイ。Van MorrisonのMoonshine Whiskey からエイモス・ミルバーンのBad Bad WhiskeyからThin LizzyのWhiskey in the jarからDoorsのAlabama Song (Whisky Bar) から、お気に入りの曲が一発で並べられる芸当はアナログ、リニアーの時代には考えもつかなかったことだろう。

いつものことながら取り留めのない結論になったが、備忘録として雑感を書きなぐってみた。

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