
フィンランドに来ている。この国を知るにはサウナを体験しないわけにはいかない。ということで、サウナに行くことにした。

サウナに行く前に、サウナの歴史を勉強せねばと思い立ち、フィンランド国立博物館へ。ここにはサウナの展示があり、スクリーンではサウナの歴史や社会的役割を古い映像で紹介している。英語字幕がついていたので理解することができた。50〜60年代は一般家庭でのシャワーの普及率は低く、公衆サウナがシャワーの代わりだった模様。サウナで出産し、病気の人はサウナで看病し、人が亡くなったらお葬式の直前までサウナで遺体を保管しなどなど人々の生活に密接に関わっていたとのこと。フムフム勉強になる。

サウナ外交も重要な政策的手段とのこと。ウィキペディアによればウルホ・ケッコネン元大統領邸の離れにあるサウナで1975年、ヘルシンキでの欧州安全保障協力会議終了後に、ソ連のブレジネフ書記長とアメリカのフォード大統領、ケッコネンが裸の付き合いをし、東西の緊張緩和に一役買ったとの逸話もあるとのこと。前日の取材でセウラサーリにあるケッコネン邸を遠目に眺めてきた。緑色の屋根の黒い建物がサウナ。

博物館を後にし、地下鉄でKallio地区へ移動。地下鉄を降りると、周辺にはエロマッサージサロンやパンク・メタル好きな若者が集うロックバーなどが。若干やさぐれ感漂うエリアを通り抜け、いざ、ヘルシンキ最古の公衆サウナ、コティハルユサウナへ。

サウナの外には裸の男たちがビールの缶を片手に談笑している。軽く会釈し中へ。番台の太った兄さんが「14ユーロだ。タオルがなければさらに3ユーロ」と言うので17ユーロ支払い中へ。

ムムム。そんなに広くはない。木のロッカーが年季を感じさせる。脱衣場にはテーブルが設えられており、男どもが酒を囲んで大声で話している。よく見るとカセットコンロに鍋をのせ、ぶっといソーセージを大量に煮ている。男たちの顔はカウリスマキ映画に出てくるそれそのものだ。

服を脱ぎ、サウナへ。日本の場合、サウナ単体で設置されている場所はほとんどない。入浴施設の一部としてサウナがある。フィンランドでは湯舟や温泉に相当する機能は無く、サウナに入る前にシャワーで身体を洗うのが習わし。郷に従い、いざサウナへ。
サウナに入り最初に気づいたのはその匂い。木を燃やしたいい匂いがする。そして、大声で話す男たちのフィンランド語だ。サウナは入り口横に炉があり、奥が一段ずつが異様に高く設置された座る場所だ。大声は入って右奥最上段から聞こえてくる。自分もその向かい側の最上段に。
なまら熱い!!自分もほぼ毎週サウナに入るサウナ―を自負しているが、この暑さは未経験ゾーンだ。我慢が出来ず、耳の上の部分を手で覆う。男たちは水が入ったバケツを近くに置き、木の枝でバシャバシャ体に水をかけている。
でかい声で話していた男が席を立ち、出ていく。出る前に温度計の近くに座っていた男に室温を確かめさせ「わかった、じゃあ2回だな(多分そういっている)」と言って、柄杓にバケツの水を汲み、炉の口から水をジャバっと2回入れる。10秒後くらいに熱波が押し寄せてきた。向かい側の男たちは意に介さず談笑を続けている。もう無理、と自分はそこで一度外に出た。

身体を冷水で冷やし、タオルを腰に巻いて、番台の兄さんに2ユーロを渡し、低アルコールビール(3%くらい)をもらって、入り口外のベンチへ。気温は3度くらいか。熱い体を急速に冷やすのは気持ちがいい。サウナがある建物は階上がアパートか何かになっているらしく、住人の出入りが激しい。住民が出ていくたびに、番台の兄さんが声をかける。婆さんもいれば、若者もいる。サウナに面した通りは往来も多い。腰にタオルを巻いた中年以上の裸男たちを気に留めるものもおらず、自分も含め風景の一部として同化している感がある。ベンチに座る爺さんのタオルがずり落ち、生まれたままの姿に赤ちゃん返りした瞬間があり、自分は若干たじろいだが、通りにいた親子連れ、通りに駐車した車から出てきた若い女性などは一切気に留めない。裸男は社会の一部、そんな感じだ。
身体が冷えたのでサウナに戻る。これを何度か繰り返し、ある法則に気が付いた。出入りするときには「温度は大丈夫か?炉に水入れるか(温度を上げるか?)」と一言声をかけるのだ。で、水を入れたら残った男たちがKIITOSの一言をかける。4度目くらいだったか出る際に意を決し「炉に水を入れるか。幾つだ?」と英語で尋ねてみた。常連らしきその中では若輩気味の60男が「2回頼む」と言ったので柄杓で2回炉に水を入れた。シュワっという音とともに熱波が発せられた。「KIITOS」と言われ、それまで感じていたアウェイ感が和らいだ気がした。
身体を冷やし、もう一本ビールを飲み、サウナに戻った。誰もおらず、一人で最上段に陣取って楽しんでたところ、常連が入ってきた。フィンランド語で何か言ってきているが、たぶん温度について聞いているのだろう。“One time is fine”と答え、男が炉に水をかける。“Thank you ”と返し、その男と会話が始まった。
男「このサウナは気に入ったか?」
俺「いいサウナだな。俺は日本人だが、地元のサウナに比べかなり熱くて驚いてる」
男「フィンランドのサウナは熱いもんだ」
俺「あと、日本のサウナにはテレビがついていて、ほとんどだれもしゃべらない」
男「フィンランドのサウナは社交場と同じだ。普段は静かな奴も、サウナでは口数が増える」
俺「そういうもんか。いい文化だな」
男「そういえば数年前に日本のテレビ局が来て、外で涼んでいたところをカメラに撮られ、インタビューされた。お前も俺のこと日本のテレビで見てたかもしれんな」
俺「いや、知らん。熱いからもう出るよ。幾ついる?」
男「温度が低くなってきた。3回頼む」
俺「わかった」
男「KIITOS」

シャワーを浴びて、着替え、外に出た。気持ちがいい。サウナから出てきた爺さんが自転車で坂を下って行った。自転車の荷台にはサウナ用の葉っぱ付きの枝が結わえられ、自転車の振動でカサカサ音が鳴っていた。地下鉄駅前の先ほどのやさぐれたロックバーで水分補給し、自分も帰路に就いた。
ホテルのサウナには宿泊客しか来ませんので、このような公共サウナに来る方は別の類の方でしょうね。
ただ、フィンランド人は一般的には自宅、別荘またはマンションのサウナを利用することが多いようです。そういう機会もあるといいですね。またお土産話しを期待しております。
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