備忘録 Kenny Barron Trio Live @ Cotton Club Tokyo 2019.10.29

アジムス@Bluenoteに続いてケニー・バロン・トリオ@コットンクラブを見た。ベース=北川潔、ドラム=ジョナサン・ブレイクとのレギュラー・トリオ。21時開演にもかかわらず若人が目立つ。ステージ横のバーに座ったが、後ろの音大生と思しきグループの女の子が「バロンを意識して聴き始めたの大学2年かな~。バロン泣いちゃうなー」とか話していた。泣いちゃうんだ。しかもバロンの発音が尻上がり調(≒やかん)で、これにも驚いた。 おじさんたちはみんなバロン(≒メロン)と下がり調子なのだ。それにしても音大生らしき客の多いこと。存命のピアニストの中でも屈指のテクニシャンでありながら、癖やイロを封印し常に主旋律に寄り添うスタイル、教科書的ともいえるのか。若い聴衆をこんなに取り込むとは、すごいぞバロン。

昨日のセトリは

1.Foot Prints                Wayne Shorter

2.How Deep is Ocean   Irving Berlin

3. Nightfall                  Charlie Haden

4.Ballad for Idris Muhammad Kenny Barron

5.不明

6.Caripso                      Kenny Baron Trio

7.アンコール              Body and Soul

ライブは変則的なショーターのフットプリンツで幕を開け、アルバム:マイナー・ブルースのアレンジと同じHow Deepへ。バロンは米国の大学で教鞭を執っており、佇まいはプロフェッサーそのもの。語り口もインテリっぽい。嬉しかったのはヘイデンとジョン・テイラーのデュオ盤Nightfallからのタイトル曲Nightfallを演ってくれたこと。美しいシングルトーンを多用するテイラーのアレンジとは違い、微妙に和音を加えながらバロン・バージョンに仕上げてきた。次にソロで朋友イドリス・モハメッドに捧ぐバラードを演奏。これもメロディー、演奏とも非常に美しく全聴衆がバロンの運指に注目し、メロディに身をゆだねた。後ろの女子音大生が涙したかわからないが、おっさんの涙腺は十分刺激されてしまった。アップテンポの2曲を終えアンコールは身も心も。バロンを支える北川のベースが若干引き気味、逆に巨漢のブレイクのドラムが前のめり。これはこれで調和がとれており、聴きごたえ充分であった。

膨大な演奏を残しているバロンだが、お気に入りを数曲紹介したい。まずはチャーリー・ヘイデンとのデュオ作Night and the CityからTwilight Song。何ともハードボイルドな雰囲気が醸され、都会の夜を想起させる硬質な演奏が魅力だ。

次はLive at the Bradley’s からBlue Moon。穏やかなポピュラー・ソングをジャズにアレンジし、ロマンティシズムを失わずに甘さを最小限に抑えた好演奏。

次は道産子ニューホープ寺久保エレナの2011年発表のセカンドアルバム、New York Attitudeからタイトル曲。雑誌のインタビューで寺久保は「ニューヨーク・アティチュード」について「ピアノのケニー・バロンの曲なんですけど、その演奏を聴いてかっこいいなと思っていて、一緒にやれるチャンスがあればこの曲をやろうと思っていました。だって、本人とやれることなんて滅多にないですもんね」と怖いもの知らずの19歳の道産子女子。演奏もかっこいい。天晴。

数多いバロンの名客演の中でも屈指の名演に数えられるのがスタン・ゲッツとのPeople Time。非常に濃密なサックスとピアノのデュオ作で、ヘイデンのFirst Songなどの名演がある。村上春樹がこの盤に触れ以下を記している。

「とくに最後のケニー・バロンとのデュオの緊迫感には,一種鬼気迫るものがある。音楽としてみれば,素晴らしい達成であると思う。彼はしっかり地面に足をつけて,その音楽を作り出している。しかし,なんと言えばいいのだろう。その音楽はあまりに多くのことを語ろうとしているように,僕には感じられる。その文体はあまりにもフルであり,そのヴォイスはあまりにも緊密である」

上記を否定的にも読み取る向きも多いが、これは一定の賛辞ではなかろうか、とも思える。緊密でフルな演奏は、探してもなかなか見つかるものではない。それを高いクオリティで実現されたライブ盤ということだ。

76歳のケニー・バロンだったが、力強く正確なタッチは健在で楽しめた。ちょくちょく日本に来ているようなので、タイミングが合えばまた行きたい。

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