備忘録 令和元年最高のカレー

意外な場所でとてもおいしいカレーに出会った。今年一番といってもいいだろう。その場所とは機関紙の取材で訪れた、道内のとある競走馬の厩舎に隣接する厩務員宿舎内である。

馬産地北海道では厩務員のなり手不足が深刻な課題で、現在数百人のインド人が厩務員として道内各地の厩舎で働いている。

厩務員の朝は早い。午前3時には馬房に入り寝藁の掃除が始まる。エサやりを済ませ、馬を洗ってブラッシングをかける頃には夜空が白んでくる。そこから馬を少し走らせ、ウォーミングアップ、クールダウンを繰り替えす。朝の作業が一通り済むのは午前10時を過ぎた頃になる。

厩務員は馬房に隣接する宿舎に戻り、遅い朝食を摂る。取材当日厩舎にいた3人のインド人は宿舎に戻ると、おもむろに食事の準備を始めた。一人は食材を洗い、一人は野菜を切り、一人はフライパンを揺らす。細かなプロセスは見ていないが、ニンニク、玉ねぎ、ひよこ豆、ナス、ピーマン、タケノコ、卵、ヨーグルトなどの具材に数種類のパウダースパイスが加えられギー(水牛の乳脂肪)で素早く強火で炒められているようだ。野菜を切っていた男が事前に作り置きしていたチャパティ(薄焼きパン)をタワー(専用のフライパン)で温め始める。部屋中にスパイスの香りが充満し始めた。

ひよこ豆のカレー
ナスのカレー
スパイスが効いた卵の炒め物

インド人厩務員は故郷の家族にできるだけ多くの仕送りをしようと生活を切り詰めている。なので、自分たちの食べる食費も可能な限り抑えようとしている。話を聞くと肉は高いのでなるべく使わないという。知り合いから安く融通してもらう野菜のみでカレーを作ることが多いとのこと。ただ、値段が高くても絶対になくてはならないものがあるという。それが、バスマティ・ライス、「香りの女王」というヒンディー語に由来する香り米だそうだ。彼らが常備しているのは5キロで約5,000円の相当高価なコメだが「これだけは節約しない」とのこと。自家製チャパティの材料となる全粒粉もインドから取り寄せたもので、日本製よりも高価だけれど「力の源」ということで、そこの出費も抑えない。

5キロ一袋5,000円のバスマティ・ライス
超絶甘いグラブジャムン の缶詰

調理が終わり出てきたのはひよこ豆とナスが主材の2種類のカレー、卵と野菜の炒め物、チャパティ、バスマティ・ライス、そして驚愕の甘さを誇るグラブジャムンというシロップ漬けのドーナツ。カレーといっても2種類ともスパイス風味の炒め物という程度で、ほとんど辛さを感じない。ところが、まずひよこ豆のカレーのほうをチャパティにのっけて口に運んでみると、あまりのおいしさにびっくりしてしまった。続けて、ナスのカレーの方ををバスマティ・ライスにかけ、少し混ぜてスプーンで口に入れるとこれまたとてつもなく旨い。クミンが、コリアンダーが、カルダモンが、とにかく香ってくるのだ。

質素に見えるが、各料理の旨さは筆舌に尽くしがたい

最年長者のシンさんに話を聞くと、日本に来る前はドバイで10年ほど厩務員として働いていた経験があり、その頃からその土地で手に入る食材でチャッチャとカレーを作る毎日が続いているとのこと。出身地がインド北部のラージャスターン州ということで、本当はすごく辛いカレーが特徴的だけど、自分は辛すぎるのは苦手と話していた。

チャパティが乗ったタワーを持つシンさん

3人の食いっぷりも目を見張るものがあった。バスマティ・ライスは手でカレーと混ぜながら3回お替りし、チャパティも4~5枚食べていた。パンにバターを塗る程度のカレーの分量を、ちぎったチャパティに塗り(浸し)、ひたすらむしゃむしゃ食べる。見ていて気持ちがよかった。

最後の一粒まで手を使ってバスマティ・ライスを食べる
部屋のテレビにはウェブ経由でインドのニュースが流れていた

気のいいインド人に囲まれて食べさせていただいた心地よさを差し引いたとしても、取材で偶然にご相伴にあずかることになった今回のカレーは、今年一番のカレーであった。

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