備忘録 Eric Gale 聴き倒し

先月ネパール国・カトマンズにあるHole in the wallなるブルース・バーに入ったらEsther Phillipsが歌うHome Is Where The Hatred(LP:From whisper to a scream収録Gil Scot Heronのカバー曲)が爆音でかかっており、思わずのけぞってしまった。この曲で地味ながらギターを弾いているのがEric Galeで「カトマンズの場末のバーでゲイルのチョーキングを耳にするとは」と感慨深げに地元のエベレストビールを啜っていたのだ。帰国後、ゲイル節がまとめて聴きたくなり自宅のCD棚を漁ってみた。60年代から90年代まで活躍し、滅茶滅茶客演の数が多いギタリストなので、個人的に刺さってくる演奏・盤を聞きなおした。

Hall in the Wallのマスター
MOMOがうまい

ゲイルは70年代にCTI/KUDU系のセッションギタリストとして多くの好演奏を残しているが、これ大好き。Bob JamesのAngela(Theme from TAXI、1978年Touch Down収録)。ボブのエレピとゲイルのギターが醸す音像がまさに、深夜のマンハッタンでタクシーを走らせるイメージと重なる。

ゲイルのシグネチャー・ギターは初期のソロ作Forecast(1973、本作ベストテイクはカリプソ調のCleopatra)のジャケットで抱えているGibsonのSuper 400 CES。エルビスのバンドでスコッティ―・ムーアが使用したり、ケニー・バレルなどジャズ畑でもよく見る見た目にも美しいギターだ。必ず同じ土俵で語られるCornell Dupreeのテレキャスの「乾いたトーンの軽い音色」に対し「芳醇で粘り腰の強いトーン」を聴かせ、歌伴でボーカルと寄り添う演奏などはゲイルの独壇場である。代表的なのはRoberta FlackのKilling Me Softly with His Songだろう。ドン・セベスキーの大袈裟なアレンジが苦手だが、全編控えめに鳴るゲイルのギターが良い。

Roberta Flackとの絡みではDonny Hatahawayとの共作Where Is the Loveで聞かせるゲイルのギターが一番好きかも知れない。

Grover Washington Jr.関連ではWinelightが一番よく聴かれていると思うが、Mr.Magicが好きだ。控えめなカッティングでグローバーのサックスを盛り立て、ブリッジでゲイルのソロが軽く炸裂、これが何とも気持ちがいいのだ。

バリバリのゲイルも聴きたい。と引っ張ってきたのがGeorge BensonのCTI作Good King Bad。今や千歳市民のデビッド・マシューズ・プロデュースによるライト・メローなフュージョン作。ベンソン、ゲイルの良さが出し切れておらず、買い殺されている駄作ながら、所々に生き生きとしたゲールのフレーズを聴くことができる。Vince Guaraldiの名曲Cast Your Fate To The Windなんかはかなり楽しい。

Van MorrisonのBang Masters 67′にもゲイルが参加しているらしい。TB Sheetsを注意深く聴くも、どれがゲイルのギターかさっぱりわからないが、御大とGaleの接点を確認できると云うだけで両方の熱烈ファンにとして意味がある行為(笑)。

ま、でも、なんといっても、ゲイルのギターを聴くにははStuff関連作品が一番良い。デュプリーとの絡みは世界遺産登録レベルの名人芸だと思うし、醸されるグルーブ感は歴代フュージョンバンドの頂点を極めている。オリジナルアルバム直球勝負はデュプリーのエントリーで紹介済みなので、今回は変化球を聴いてみる。

で、こんなのを聴いてみる。Carla BleyのDinner Music(1976)は、Stuff + ホーンセクションの様な体のアルバムで、ブレイの前衛的なジャズは影を潜め、聴きやすい。ドラムのクレジットはガッドだけど村上ポンタ修一が「ラリって叩けないガッドの代わりに俺が叩いた」と自叙伝で宣っている。7曲目Ida Lupinoのゲイルの泣きのギターが聴きどころ。(映像無し)

次にPaul SimonのOne Trick Pony(1980)を聴く。サイモンの映画のOSTで評価がいまいち定まらない盤ではあるが、個人的には好きなアルバムだ。最高なのはサイモンとRichard Teeのライブ・デュエット曲Ace in the Hole。オハイオ州クリーヴランドにあるAgora Clubでのライブ演奏がそのままアルバムに使用されており、ライブ盤映像(これまた最高なのだ)も残っている。ゲイルのファンキーなサイドがグイグイ出てきて楽しいし、グルーブの塊みたいな一曲。このガッドも最高。

ゲイルの名演は枚挙にいとまがなく、まだまだ聴きどころはたくさんあるが最後はこれ。Live at Montreux 1976。STUFFのレコードデビュー直前、極初期のライブ映像でメンバーがみんな若い!最年長のゲイルでも41~2歳の頃か。元気の良さと目立ち具合はデュプリーに一歩譲るが、ゲイルの、既に円熟味を帯びているプレーはグループに落ち着きを与えている印象。いきり立つデュプリーを諫めるようなゲイルおじさんのプレーが微笑ましい。よほど神経質なのか、ずっとチューニングを気にしてペグをいじっている。

バルバドス出身の父親経由で中南米音楽の影響を受け、医学を志し、ティーン時代にコルトレーンの薫陶を受け、ザ・ドリフターズ、ジャッキー・ウイルソン、ザ・フラミンゴス、マキシー・ブラウン、リトル・アンソニー、アイズレー・ブラザーズ、ジェイムス・ブラウン、リトル・リチャード、マービン・ゲイ、ヘンドリックスとも共演し、モータウン・サウンドの一角も担い、CTIセッションギタリストとして一時代を築いて、STUFFというユニットでそれまでの蓄積を昇華し、名演を残した稀代のセッション・ギタリスト。こういう渋いギター弾きが、今後出てくることを期待したい。

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