備忘録 The Aki Kaurismaki Collection =アキ・カウリスマキ DVD ボックスセット

Covid-19の影響で新千歳―ヘルシンキ線が先週から全便欠航となり、30日から予定していたフィンランド行きをキャンセルした。ま、これは仕方がない。

このパンデミックの影響でヘルシンキ空港をハブ化し、EU各地に乗り継ぎ便を飛ばせる主戦略が域内封鎖で倒れ、次に収益の多かったアジア、とりわけ日本路線全便を欠航させることとなったことでフィンエアーは大きなダメージを受けた。この航空会社はフィンランド政府が55%の株を保有する半官半民のようなところがあり、すぐさま政府が600億ユーロの資金投入を決め短期的な危機に関しては乗り切れる見込みだが、心配なのは経営悪化による路線縮小。せっかく17年ぶりに北海道と欧州が結ばれたヘルシンキ―新千歳路線が復旧しない可能性が、このままCovid-19が猛威をふるい続けると、現実味を帯びてきかねない。昨年フィンエアー本社で取材したヨンネ・レヘティオクサ副社長は「ロマンとビジネスを天秤にかけて、ロマンを取ると、経営が傾く。新千歳への直行便は収益が上がって初めて継続の判断をする。搭乗率8割を割ると、厳しい」と話していた。冬季限定だった直行便の搭乗予定率が高く、いち早く通年就航を決め喜んでいたばかりであったが、全世界的な旅行マインドの萎縮が続くと夏季便どころか当初の冬季便までも戻ってこない可能性がある。収束には時間がかかるだろうが、必ず復旧していただきたい。

キャンセルとなったが、今回のフィンランド行きの目的の一つはカウリスマキ映画のロケ地巡りだった。未所有の旧作を見直すべくDVDのボックスセットを購入しようとアマゾンをはじめいろいろ調べたが、日本でのアキ・カウリスマキ人気はちょっと異常で、いくつかの作品を除いてDVDがすべて売り切れ。絶版のDVDがプレミア価格で中古市場に出ているだけとなっている。10枚組のThe Aki Kaurismäki Collectionが英米向けに2017年に発売されたが、日本版は無く、アマゾンUSから取り寄せてしまった(後で見てみたら同じ商品がAmazon Japanでも7,500円くらいで買えることが判明)。数作所有済みのものもあるが、結構気合の入ったブックレットと、なんといっても80年代のレアな作品群を含む主要作全てが、最新作「希望のかなた(2017)」まで網羅されており、送料込みで6,000円くらいでまとめて手に入るということで、躊躇なく購入ボタンを押した。

下記に収蔵作品(中・長編)を記載したが、その他、短編や監督したミュージックビデオ作品も網羅されていて初見のものもある。レニングラード・カウボーイのTHESE BOOTSのPVなど、初めて見たが笑ってしまった。あの連中がサウナで歌っている。

コントラクト・キラーとレニングラード~モーゼに会う、が未収録なのが残念至極だが、コントラクト・キラーにはクラッシュのジョー・ストラマーやトリュフォー「大人は判ってくれない」主役のジャン=ピエール・レオなどが出ているので、版権問題が絡んでいるのでやむを得ないのかもしれない。

米国アマゾンからの輸入品なのでRegion2・PAL方式。家のDVDプレーヤーでは見れないので、PCのリジョン・フリーの外付けDVDで再生し、HDMIでテレビと繋げば問題なく再生できる。登場人物が無口なフィンランド人ばかりなので、英字幕を追うのもさほど大変ではなく、十分楽しむことができる。

以下、中・長編収録作。

1.’Crime and Punishment’ (1983), 罪と罰

2.’Calamari Union’ (1985), カラマリ・ユニオン

3.’Shadows in Paradise’ (1986), パラダイスの夕暮れ

4.’Hamlet Goes Business’ (1987), ハムレット・ゴーズ・ビジネス

5.’Ariel’ (1988), 真夜中の虹

6.’Leningrad Cowboys Go America’ (1989), レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ

7.’The Match Factory Girl’ (1990), マッチ工場の少女

8.’La Vie de Bohème’ (1992), ラヴィ・ド・ボエーム

9.’Total Balalaika Show’ (1994), トータル・バラライカ・ショー

10.’Take Care of Your Scarf, Tatiana’ (1994), 愛しのタチアナ

11.’Drifting Clouds’ (1996), 浮き雲

12.’Juha’ (1999), 白い花びら

13.’The Man Without a Past’ (2002), 過去のない男

14.’Lights in the Dusk’ (2006), 街のあかり

15.’Le Havre’ (2011) , ル・アーヴルの靴みがき

16.’The Other Side of Hope’ (2017), 希望のかなた

15年くらい前に深夜にNHK-BSでやっていたミッドナイト映画劇場で見て以来、今回改めてカラマリ・ユニオンを見た。映像的には仏ヌーベルバーグの影響が色濃く、特にあっけなく、あっさり人が死ぬシーンなどゴダール映画の手触りそのものなのだが、随所にのちのカウリスマキ・ナンセンスともいえる可笑しさがちりばめれており、楽しめた。笑ったのは空腹のマッティ・ペロンパーがスーパーでいわしの缶詰を前にして口にしたセリフ。

「死んだ魚は缶に守られ
 缶はウインドウに
 ウインドウは警察に
 警察は恐怖に守られてる
 たかが6匹のイワシにそれだけのバリケードだ」

また、カウリスマキは小津安二郎から市井の人々の撮り方を学んだと言っている。なるほど小津映画のように、何も起こらない日常を淡々と映し出すことによって、登場人物の心の細やかな機微をあぶりだす手法を取る。マッチ工場の少女以降の作品にその傾向が顕著にみられる。すこぶる冴えない登場人物が不幸な目に合うが、最後には希望の光が差し込む予兆を盛り込む、というのがカウリスマキ映画の王道パターンであり、そのささやかなカタルシスを求めカウリスマキ映画を見る。

先週フィンランドが昨年に続き世界幸福度ランキングで3年連続世界一幸せな国と発表があった。日本は62位。昨年の58位から4ランクダウン。ちなみに日本最高位は2010年鳩山由紀夫内閣時の11位。ただし、仏頂面の中年男女が、デッドパンの演技でドラマを繰り広げるカウリスマキの映画からは、フィンランドが世界一幸せな国というイメージが浮かび上がってこないだろう。

フィンエアー直行便が再開する暁には、カフェ・モスコウはじめカウリスマキ由来の土地歩きをしたいと思っている。

カウリスマキが所有するのKAFE MOSKVA(ヘルシンキ中心部のプールバー)にはマッティ・ペロンパーの大きな肖像写真が飾られている。気軽にビールを飲めるので、昨年の滞在中は重宝した。

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