
ボニー・レイットは大好きな女性シンガーだ。息の長いアーティストなのでかなりの作品数なのだが、全作品の中でもSweet Forgivenessに収録されているAngel from Montgomeryが一番好きだ。作者はレイットではない。
この作品の作者は先週コロナに感染し、急逝したJohn Prine。共演した記録もたくさんある。これはいつぞやのライブ音源。

日経電子版によるJohn Prineの死亡記事。
「ジョン・プライン氏(米国の著名シンガー・ソングライター)米メディアによると、4月7日、新型コロナウイルス感染による合併症のため米南部テネシー州ナッシュビルの病院で死去、73歳。1946年、米中西部シカゴ生まれ。大物アーティスト、クリス・クリストファーソンさんに見いだされ、70年代前半にデビュー。代表曲「エンジェル・フロム・モンゴメリー」などを多くのミュージシャンがカバーし、ことしのグラミー賞で生涯功労賞に選ばれていた。(ニューヨーク=共同)」
アメリカでは影響力が強いSSWとして尊敬を集めていて、生涯功労賞はChicago, Roberta Flack, Isaac Hayes, Iggy Pop, Public Enemy, Sister Rosetta Tharpeと並んで受賞。SSW界のマーク・トウェインと称されることもあり、アメリカの良心としてミュージシャンのファンも多い。ディランはJohn Prineを「プルースト的な実存主義者。アメリカ中西部の心象風景を描かせたら彼に並ぶ者はいない」と賛辞を述べている。ブルース・スプリングスティーン、トム・ペティ、ジョニー・キャッシュ、ロジャー・ウォータースなどファンを公言する大物は多くいる。こちらは本家の同曲。
John Prineの歌詞は眺めているだけでも映像が浮かぶ。お金はたくさん持っていないけれど、シンプルに生きている市井の人々の暮らしが浮かぶ。日本人が米国のSSWの機微を手に取るように感じることは、米国人が演歌の機微を知ると同じ様にハードルが高いけれど、John Prine の歌詞は陰翳礼賛的な湿り気を感じるのだ。例えば、代表曲のHello in Thereの歌詞の一部。
We had an apartment in the city.
Me and my husband liked living there.
It’s been years since the kids have grown,
a life of their own, left us alone.
John and Linda live in Omaha.
Joe is somewhere on the road.
We lost Davy in the Korean war.
I still don’t know what for,
don’t matter any more.
私たちは街のアパート暮らし
夫も私もそこが気に入っている
子供が大きくなってしばらくたって
巣立っていき、私たち二人きりの生活
ジョンとリンダはオマハに住んでる
ジョーは旅の途中
デイビーは朝鮮戦争で命を落とした
何のために死んだかわかりゃしないけど、
そんなこともうどうだっていいわ
なんてことはない歌詞の情景の行間に、諦めと悲しみとそしてささやかな喜びを見いだすことができる。
既往症があったものの、コロナにやられてしまい鬼籍入り。残念至極。RIP。
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