KAEF350が我が家に来たのは2017年12月、ちょうど3年を迎える。
marantz(マランツ) PM6006、CD6006にONKYO D/Aコンバーター DAC-1000をかませて使用。マンション暮らしでハイエンドオーディオ鳴らせる環境も先立つもの無いので「安価でそこそこ良い音のオーディオ」として3年前に揃えた。このコンビネーションには大満足しており、毎日電源を入れるのが楽しみである。最近は実家で眠っていた、高校生の時に親に買てもらったKENWOODのROXY-CD7ミニコンポのレコードプレーヤーKP-747を繋いでアナログも楽しんでいる。
KEF350に関しては数回レビューしており、その都度褒めちぎってきたけれど、未だその印象に変わりはない。支払った金額以上の音を確実に提供してくれている。経年の変化として顕著なのは、スピーカー本体とケーブルのエイジングの仕業か、音の角が取れまろやかになってきている印象を受ける。もともとドンシャリが苦手という理由で、選択したスピーカーであるので、まろやかさが増し(という表現もおかしいけれど)、自分の音の嗜好に近づいてくれている印象だ。大音量ではならせない環境でも、きっちり、すっきり、しゃっきりとまろやかにメリハリある音を出してくれ、一軒家に引っ越すことでもない限りスピーカーを変えたいとは思っていない。
今回はちょこちょこ買い漁っているアナログの音をKEF350から出してみたい。自分は基本的に洋楽好きで、所有する音源のほとんどが洋楽CDなのだが、KEFから出てくる邦盤、洋盤のアナログの音も好きなのである。

まず、音が良くてびっくりしたのが原田真二の3作目、Human Crisis(1980年)だ。前から聞いてみたかったのだが、CDはプレミア価格がついていて手が出ず、二束三文で売られていたLPを買った。1980年にしてデジタル録音しており、ウィキに拠れば「リスナーが2台のスピーカーと正三角形になる位置を保ち、できるだけボリュームを大きくして聴くと、スピーカーより外側から音が聞こえるパイオニック方式という録音が成されてあった」とある。パイオニック方式とは何ぞや、という感じだが明らかにエンジニアリングに特段配慮した録音になっている。原田真二は早熟の天才だが、彼の本質は一番売れた1枚目(これはこれで素晴らしい)ではなく、2枚目のNatural High(1979)、本作、4枚目のEntrance(1981年)に凝縮されており、一連の名作を20代の初めに発表しているということに驚きを禁じ得ない。CDを所有していないので、アナログとの比較はできないのだが、音が良くてびっくりした盤である。

次は富田勲の「宇宙幻想」の洋盤「TOMITA/KOSMOS」(1978年)だ。自分にとって冨田勲といえばジャングル大帝レオのテーマなのだが、巷ではシンセサイザーの大家として内外から神格化された存在である。スターウォーズや2001年宇宙の旅のツァラトゥストラはかく語りきなど宇宙を想起させる楽曲が、シンセサイザーで再構築されており、アナログで聴くとシンセサイザーのオールドスクール感が増幅され、良い。同じシンセサイザーオタクのクラフトワークにあるような、ポップセンスが欠落しているので大衆受けはしないものの、じっくり聞くととても分かりやすく、カッコいい。伊達にステイ―ビー・ワンダーから尊敬されていたわけではないのだ。ニューエージとしてくるられてしまった時期が長かったと思うが、多くの人に聞いてもらいたい日本人の一人だ。こちらも未所有につき比較はできないが、アナログの音質は優れている。

次はフィル・コリンズのファースト・ソロ、フェイス・バリュー(1981年)だ。本作は80年代のドラム音の顔、ゲイト・リバーブを世に知らしめたアルバムということだけでも、一聴の価値がある。スプリングスティーンのBorn in the USAもPower StationのSome like it hotも本作がヒットしなければ、別なドラム音になっていただろう。シングル曲のIn the air tonightはいかにもGenesis時代のフィルコリンズを彷彿させる曲だが、途中のフィルインからして強烈なゲイト・リバーブが効いたドラム音が出現する。ドラム音の3D化とでもいおうか、このアルバム以降80年代のヒット曲は、それまで無かったゲイト・リバーブを多用することになり、今となっては陳腐化するも、時代の音として刻み込まれている。コリンズはもともとR&B嗜好が強く、後にYou can’t hurry loveなどをカバーするが、I Missed Again、Behind the LinesなどはEW&Fホーン隊の切れきれのホーンアンサンブル従え、非常に強力なポップソウルに仕上がっていて、今聴いてもカッコいい。EW&Fのホーンはアナログで聴くと非常に厚みを感じるが、当然本作もアナログだからこその聴き映えが感じられ、はっきりとCDよりも音がよく聞こえる。6,70年代はJames BrownがHardest working manであったが、80年代はコリンズがBusiest man in the worldといわれた。そのきっかけとなったのが本作である。
KP-747も30年以上前のミニコンポにこのクオリティの音を出すレコードプレーヤーが付くのか、というくらい良い音を出してくれ、昨今のアナログブームで5万円前後で売られているプレーヤーには全然負けないくらいしっかりとした音が鳴る。コンポ全盛時代のオーディオメーカーの粋が凝縮されているのだろうか。KEF350はROXY7に組み込まれていたスピーカーよりも格段に良い音が鳴るので、初めてKP-747をKEFに繋いだ時は、この旧機のポテンシャルに驚いた。

アナログにも音の個体差があり、すべてのアナログがいい音で聞こえるわけではないが、ダイナミックレンジも含めCDを上回る音質の盤も存在する。個人的には、所有するアナログの最高峰はMJのスリラー・マスターサウンド盤(1983年)とEW&Fの創成期(1983年)だが、なぜか両方ともCDよりも、心がときめく。特に、前述のホーンセクションの音の出方は、アナログの方が前に出てくる感じで自分の好みに近い。
スリーブからレコードを出し、ターンテーブルに乗せ、針を落とす一連の所作も「音楽を聴くぞ!」という期待感を膨らませ、その行為を特別なことにさせているのだろうか。いずれにしても、これからも所有するCDで特に気に入っている作品のアナログ盤を探していきたい。
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