仕事でマダガスカル国へ行ってきた。アフリカ南東に浮かぶ、世界で4番目に大きな島国だ。面積は日本の1.6倍ある。地殻変動で古代にゴンドワナ大陸から引きちぎれ、長い間アフリカ大陸とは違った、独自の生態系を保ってきたことで有名な国である。キツネザルの固有種が多いことや、大陸には1種しかないバオバブの木もマダガスカルには数種あるのはそのためらしい。多くの旅行者はその様なマダガスカルの独自の植生や生態系を見るために来るのだが、それら観光地には首都アンタナナリボから飛行機を乗り継がなければたどり着くことができない。釣り好きの自分としては、沿岸地域の観光資源として有名なオフショアのGT(ロウニンアジ)や、ショアからの青物・鯛釣りにも興味があったが、今回の滞在はアンタナナリボに限られた。治安の関係上、日没後の単独での外出が禁じられ南半球で冬至に近いこの国は17時半には暗くなるので、仕事からホテルに戻り夕食を食べる前には一日が終わってしまい、後は部屋で酒を飲んで寝るだけの生活を10日続けた。




















マレー系の血が混じるマダガスカルの人々の容姿は大陸のそれとは明らかに違う。肌は褐色系で体躯は小柄だ。顔立ちや遠慮深い性格はアジア人と共通する。昔は自国をアフリカの一部と認めずに、経済共同体を作るときに「アフリカ+マダガスカル国」の呼称を押し通そうとしたとのことだが、確かにアフリカと括るには異質な国ではある。普段付き合いのある大陸の所謂アフリカ人はおおざっぱで外交的な性格が印象的ただが、マダガスカル人の内気なところと繊細さはアジア人に通じる。主食は米で、一人当たりの消費量は世界一とのこと、日本人の1.5倍食べるというから驚きである。シグナチャーフードは大量のインディカ米に汁気のある肉と野菜のソテーをぶっかけて食べるというもので、味付けはマイルドで日本人の口には合う。




マダガスカル国のGNI指数は161か国中下から3~5番あたりを行ったり来たりしており、世界最貧国の一つに数えられ貧困率は人口の約 8 割にのぼる。短い滞在の中でも、その貧しさに目が行ってしまう場面に数多く遭遇した。ホテルの近くには多数のホームレス、物乞い、ストリートチルドレンがいて、彼らよりも暮らし向きが少し良い人たちが通り沿いにスラム街を形成している。汚染されてエメラルドグリーン色に変わった川で女たちが洗濯し、裸足の子供たちがお金をせびって50メートルくらいついてくる。中通りに入ると露天商が立ち並び、肉や魚や野菜を売る人々が通りを埋めつくし、ニワトリやカモや野良犬や猫がそこかしこで闊歩している。慎ましさの中でたくましく生きている人々の穏やかで明るい表情が眩しい。












































ここ数年、日本でも貧困が顕在化しているとの新聞見出しが躍るが、マダ国の絶対的貧困と、日本の貧困の質の差を感じてしまう。日本の貧困は行政が介入すれば解消可能という期待を淡く感じるが、マダ国のような最貧国では国や行政の福祉政策は貧困層までにしか届かず、都市人口の数パーセントを占めるホームレスや物乞いなど最貧層への救済措置は限定的である。よって、最貧困の負の連鎖が永遠と続く。物乞いの子供は学校に行けずに、物乞いの生業を継ぐしか選択肢がないのである。ホテル裏にあるフランス料理店で見たマダガスカル人富裕層のご婦人たちと、ホテルの脇の沿道の地べたに座り、冬なのに着せるものがない乳幼児に母乳を与えながら物乞いをしていた若い女性の間には、日本人には想像できないほどの大きな溝があるのだろう。



フランス資本のホテルに滞在したこともあり、ホテルの人々の暮らしぶりと現地の人々を対比し、本当に植民地支配が完全に終わったといえるのだろうか、という疑問が頭をもたげる。旧仏領のマダ国はホテルに限らず、流通・スーパーマーケット・小売りなどの分野にもフランス系をはじめとした外資企業が多く入り、経済的な支配感が圧倒的に強い。雇用以外の場面で、外資のプレゼンスが市井の人々の暮らし向きを直接向上させることは限定的ということを考えると、やはりマダ国は仏国の経済植民地であるという事実に向き合わざるを得ない。地下資源やバニラビーンズなどの高級農作物の生産をも外資に握られ、流通・小売り部門も完全に外資頼みということになると、自国に落ちるうまみがほとんどないということになる。開発に関して世銀や国際ドナーの援助頼みということは他の途上国とは変わりがないが、自国産業がほぼゼロという国では最貧国を脱するための成長を期待することはやはり難しいのだろうか。そんなことばかり考えていた10日間だった。











帰国日だった6月26日はマダ国の62回目の独立記念日だった。日暮れと同時に花火が打ち上げられ、ホテルの窓越しに独立を祝う明るい歓声が聞こえてきた。
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