ここ数日の札幌は晩夏の様相で、気温も上がらず過ごしやすい日が続いています。日も随分と短くなり、秋の足音が聞こえ始めた印象です。とはいっても、9月になっても30度を超す日が近年では珍しくないので、油断はできませんが。
先日、暑い日にラジオを付けていたら、キューバっぽいカッコいい曲がかかっており、「いいなぁ」と聴き入っていると、後からDJがマーク・リボーの「偽キューバ人たち」からの一曲と紹介していました。自分でもずいぶん前に購入し、久しくCDトレイに乗っけていなかったので、そのアルバムを引っ張り出して聴き返してみたところ「ラテンエッセンスが効いた音楽えーやん、この季節にピッタリ」と腑に落ちたわけでして。夏の終わりということで、ラテンを本業としないミュージシャンによる変化球のラテン系アルバムをまとめて聴いてみました。他にもたくさんあるのですが、今の気分ということで選んでいます。サブスク全盛の時代ですが、CDラバーとしてはジャケットの写真付きで各盤紹介したいと思います。

そのMarc Ribot Y Los Cubanos Postizos(1998年)邦題「マーク・リボーと偽キューバ人たち」は実際に素晴らしいアルバムです。Mark RibotはTom WaitsのRain DogsやLounge LizardsのBob the Bobあたりではじめて聴いたことになるのだけれど、その時はかなり尖がったギターを弾く人だなぁという印象でした。自身のギターを「アルバート・アイラーの影響を受けたパンクロックのようなものだ」と表現しているほどで、わざと音程外すし、かなり歪んだ音色を好むし。このアルバムでは、オーセンティックなキューバ音楽に時々、キューバっぽくない音のギターソロが入ってくるというもので、アバンギャルドな視点から古典を再構築したともいえるのでは無いでしょうか。陰影的な雰囲気があり、(行ったことはありませんが)場末のキューバの酒場から漏れ聞こえてくる音楽、というイメージを勝手に抱いています。10曲中9曲は、40年代から50年代にかけて、キューバの音楽形式「ソン」を普及させた第一人者アルセニオ・ロドリゲスの作品で、普通にキューバ音楽として質が高いと言えるアルバムであるとも思います。(偽キューバ人のタイトル通り、キューバ人どころかラテン系のミュージシャンはいません)。ブエナビスタ好きにもそこそこアピールするのではないでしょうか。

このアルバムの続編「¡Muy Divertido!」(2000年)も同一路線の好盤です。オルガンが前面に出た曲が目出しますが、Ribotの筆による曲も3曲あります。邦題は「めっちゃ愉快」とありますが、こちらも若干ダークな作品です。(リボーのアイロニーでしょう)
Latin Playboys(1994年)
Los LobosのDavid Hidalgo、Louie Perezと、この時期に勢いのあったプロデューサーコンビMitchell FroomとTchad Blakeのユニットによる作品です。Lobosの傑作Kiko(1992年)がFroomによるプロデュースで、セールスを伸ばし成功を収めたこともあり、その延長線上でさらにエクスペリメンタルな音作りを目指したアルバムと捉えられます。オーバープロデュースが代名詞のようなMitchell FroomとTchad Blakeのアレンジによって、イダルゴの楽曲が意図的にローファイに再構築されています。とあるアメリカの音楽評論家は本作を「メキシコの国境沿いをドライブしながらカーラジオを聴いている気分になる」と評し、90年代アルバムのTop10に入る名作と讃えています。このプロデューサーコンビはLos LobosのColossal Head(1996年)で再びタッグを組み、ある意味そっちの方向(ルーツミュージックとは真逆の方向)に振り切り、その後Los Lobosは原点回帰すべくルーツ系の音作りに戻っていきました。90年代前半のFroom&Blakeは時代の寵児的な存在で、私の好きなRichard Thompson, Bonnie Raittまでも90年代初期に彼らによって濃い味付けに調理され、その後元々の風味=ルーツミュージック系に戻るというサイクルを経ております。

2作目DOSE(1999年)はさらにエクスペリメンタルな作品で、ドープ感が強くなっていますが1作目が好きだという人にはお勧めできるでしょう。クラブではこちらの方が重宝されているようです。前作に続き、録音エンジニアはBob Ludwig が担当していて、音がとてもいい盤でもあります。

Ry Cooder & Manuel Galban Mambo Sinuendo(2003年)
ま、これは純粋にキューバものとして扱うべき音楽ではありますが、ライのアルバムでもあるので選んでいます。全編ほぼインスト作品。選曲はキューバのスタンダード・ナンバーが中心で、Secret Loveのみドリス・デイが歌ったアメリカのナンバー。アルバムタイトル曲ではハープ・アルバートの哀愁に満ちたトランペットが聴くことができますし、Perez PradoのPatriciaなどお馴染みの曲も絶妙にアレンジされていて、全体的に気持ちよく聴けるアルバムです。ガルバンは自身がファンだったサーフ&ホット・ロッドの特徴的なギターサウンドをキューバに持ち込んだギタリストで、本作でもキューバン・クラシックスをそれっぽいギターフレーズを交えて、つま弾いています。映画のクレジットには出てこないようですが、Buena Vista Social Clubのツアーでギターを担当していたとのこと。ライはあくまでも黒子役に徹していますが、やはりこの人のスライドギターはいつ聴いても良いものです。本作はお酒がすすむ作品で、雰囲気的にはテキーラ酒なんかが合うのではないでしょうか。2004年のグラミーの最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞しています。

David Byern Rei Momo(1989年)
Talking Heads解散の前後からバーンはラテン音楽への傾倒を強め、ワールドミュージック専門のレーベル「ルアカ・バップ」を設立しました。自ら南米やカリブ諸地域を旅して周り、その辺を中心とした音楽・ミュージシャンとの交流や欧米シーンへの紹介・発掘を進めていました。1980年代中期以降のことです。1989年の2ndソロアルバムとなる本作は、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、コロンビア、ブラジルなどのラテン音楽一色となっています。Talking Heads初期は随分とI Zimbraなどアフリカ路線に寄った音楽を作っていたことを考えると270度くらい(根拠はありませんが)方向を変えたことになります。メラニー・グリフィスが好演したジョナサン・デミの映画Something Wild(1986)のオープニングは本作のLoco de amorが使われており、キューバの歌姫セリア・クルーズのちょっと不気味な歌い出しから本格的なサルサのリズムで映像を引き立てていました。デミが監督したStop Making Sense (1984年)を超えるクリエイティブなライブ映像は出てこないと思っていたところ、昨年公開されたスパイク・リーのAmerican Utopiaが軽くそれを上回ってきてしまい、びっくりしてしまいましたね。

The Chieftains Santiago(1996年) & The Chieftains and Ry Cooder San Patricio(2010年)
Santiagoではアイルランドの至宝Chieftainsがキューバと密接な関係があるスペイン・ガリシア地方の音楽をケルト音楽のフィドル、フルート、ドブロなどの楽器と、ガリシア地方のバグパイプなどを使用して、ラテンテイスト香る聴きごたえのあるケルト音楽に仕立てています。リンダ・ロンシュタット、ロス・ロボス、ライ・クーダーらもゲストとして歌ったり、演奏したりしていますが、それら大御所が目立たないほどChieftainsの演奏が見事です。制作にあたってChieftainsがライをキューバに連れて行って、地元のミュージシャンとセッションを重ねたことで、後のブエナビスタに繋がったとチーフタンズの公式サイトでは仄めかしております。巡礼の道順にしたがってバスクからガリシアまでの音楽を辿り、最後はポルトガル国境のビーゴの町にあるダブリンという名のパブでのライブで終わるというストーリー仕立てで、1997年のグラミーでBest World Musicに選ばれています。

San Patricioは聴き方によってはSantiagoと似た路線の作品で、Ryだけではなく、前述のSantiagoにも参加したガリシア地方のガイタ奏者、カルロス・ヌニェネスも参加しています。グアダルーペが死んだ兵士を抱えているジャケットが印象的ですが、本作のテーマは米墨戦争の際、アイルランド出身のアメリカ人からなる聖パトリック大隊=サン・パトリシオが、アメリカでなくメキシコのために戦ったことがテーマとなっていて、主にメキシコ人作曲家による作品が連なっています。アイルランド人にはそういった泥臭さがあって、彼らが作り出す音楽にもにじみ出ていると思います。Van Dyke Parks、Rinda Ronstadtなどの大御所もクレジットに名を連ねていますが、本作の聴きどころは素晴らしい無名のメキシコ人ミュージシャンの演奏で、見事にケルト音楽の融和を果たしています。肝心のRyはあまり目立ちませんが、一曲だけ自作のメキシカン・ソングを歌っていて、これはこれでとても味わい深い仕上がりになっています。あとParis Texasにも収録されていたCancion Mixtecaで渋いギターを聞かせてくれていて、往年のファンを唸らせてくれます。RyはChávez Ravine(2005年)という1950年代にロスに移り住んできたチカーノ・アメリカンへのオマージュ作品も世に出しており、名作Chickin Skin Music(1972年)以来、ラテンのエッセンスをうまく自身の音楽に取り入れてきたミュージシャンの筆頭と言えるでしょう。

チーフタンズのコンサートは2001年のZepp仙台公演に行き、念願の生演奏を聴くことができました。今年2月に亡くなったPaddy Moloneyがドリフの長さん役のような感じでコミカルにステージをすすめていたのが印象的でした。演奏は◎でした。合掌。
おまけ
純粋なロック音楽界を見渡して、ラテンサウンドをうまく取り入れているミュージシャンの筆頭はStephen Stillsではないでしょうか。軍人の父の転勤でコスタリカやパナマなど南米を転々としていた影響で、「まんまラテン」というよりは「ラテン風味を効かせた」佳作を世に送り出してきたミュージシャンと言えると思います。彼の楽曲でもっとも有名な「Love the on you’re with」もラテンバイブをかなり感じるし、未発表曲が多数収録されたボックスセットCarry on(2013年)には未発表や入手困難な熱いラテン風味に味付けされたロックが数曲収録されています。中でもSTEPHEN STILLS STEPHEN STILLS CALIFORNIA BLUES BANDのCuba Al Finという曲は熱いを通り越して暑苦しい曲ではありますが、全編西語で歌われており、スティルスのラテンバイブの本領を発揮している曲と言えるでしょう。

ご機嫌な音楽を聴きながら、残夏の余韻を楽しみたいと思います。
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