カヤックフィッシングは良い。まず、釣り場が混まないのが良い。そして、海上で浮遊感を楽しめるのが良い。燃料を必要としないのも良い。さらには、陸からよりもよく魚が釣れるのが良い。仮に釣れなくても、費やした時間はカヤッキングを楽しんでいるわけで、魚が釣れなくてもまぁまぁ良い。(もちろん釣れたほうが楽しいけれど)

シーズンになると、出かける海で多くのカヤックフィッシャーに出会うが、ほとんどがリジッド艇(硬いプラスチック製)で、自分のようにインフレータブルカヤック(空気を入れるタイプ)を使っている人はほとんど見ない。考えられる理由として、日本で出回っているインフレータブルカヤックは海に出るには心もとない造りで(剛性に欠ける)、操舵性にも難があるためと想像している。米国AIRE社のスーパーリンクス(意訳:大山猫艇)は全長4.2㍍1100デニールのPVC2重の硬質構造を持つ頑丈な船で、インフレータブルの中ではかなり硬い艇の部類に入る。例えば、モンベルが販売元となっているインフレータブルカヤックのチヌークが600デニール、全長3.6㍍なので、スーパーリンクスが大きく、厚いPCVで堅牢にチェンバーが作られているか想像できる。以前所有していたSTERN製のカナディアンタイプのインフレータブルと比較すると、速度が出やすく操舵性に優れているが、トレードオフとして艇のヘリ(ガンネル)が低く、波をかぶりやすい。ただし、セルフベイラー(船内の水が自動で抜ける装置を有する)艇なので、水を被って沈没する心配はない。その点だけでも、カナディアンやリジット艇より安心感があり、海で使う利点が多い。それらの船は高波で水を被るとビルジポンプなどで、排水しなければならないし、転覆すると再乗艇が困難なところ、本艇は浮力が高いうえにフラットな構造なので再乗艇が容易だ。難点はホワイトウォーターにも対応した川下り用なので、ラダー(舵)は当然の事、スケグ(フィン)すらついていないということ、即ち直進するための補助機能が備わっていないことだが、オオヤマネコ艇にはアマゾンで購入した着脱可能スケグを無理くりボンドでくっつけている。なので、直進走行性はある程度確保できるように工夫を施した。現在は米国NSR社から新品で2,549ドルで販売されているが、数年前に程度の良い中古を5万円くらいで購入できたのは幸運だったのだろう。

釣り専用外のインフレータブルを使用する難点は竿立てや、魚探設置などの艤装を自作しなければならないところにある。最近は釣専用艇が沢山出ていて、ロッドホルダーや艤装用のステーが標準装備されていて、外見的に非常にスマートに見える。オオヤマネコ艇の艤装は大雑把極まりなく、無垢板にスコッティの竿立てと魚探、魚探用の振動子ラダー受けをネジで固定し、逆側に船釣り用の「受け太郎」という竿受けを取り付けただけのものである。この艤装板をロープでカヤックに固定し、見栄えはしないが、なんとかかんとか海に出ても魚探を見ながら竿2本体制で釣りができるのである。

土曜日にカレイ、あわよくばヒラメを求めて、噴火湾は豊浦の浜に出艇した。今季太平洋初出艇である。サクラマス、ホッケ、カレイ狙いのショアからの釣りだと、釣果は釣り座次第のような側面があるので、場所を確保するまではなんとなく慌ただしいいのだが、その点カヤック釣りはのんびりできる。コロナ禍で釣り人口が増え、ゴミを持ち帰らないなど狼藉をはたらく釣り人なんかも増えてしまい、いい釣り場だった漁港が閉鎖されたなどという悲しいニュースも仄聞する。

この日も、明るくなってから出艇場所に到着し、カヤックを準備して、無人の浜から船を出したのは7時過ぎである。竿はキャタリナ2本、ワンダーショットの3本体制、スロジギとキャスティングとバケ振り用を準備した。10分ほど漕ぐと15Mラインに到達し、そこで一本をイソメを付けた置き竿、もう一本でジグを振った。この時期は、冬場に深場にいた魚が海水温の上昇とともに産卵のため岸よりしてきていて、潮回りが良い日だとマガレイ、沼ガレイ、スナガレイ、ムシガレイ、宗八、クロガシラなどコンスタントに当たりがあるのだ。噴火湾だと稀に高級魚マツカワガレイがかかることもある。カレイの場合カヤックでは型物が釣れる好ポイントは遠すぎてアプローチ困難な為、漁港で投げ釣りをする方が、良型が釣れる可能性もあるのだが、沖に出て船でプカプカ浮かぶことの方が目的としては大切なので、魚は二の次でよいのである。波も低く風も穏やかな日は、ことさら気持ちが良い。積丹方面だと、釣りをしている横でアザラシが浮かんできたり、カマイルカがぴょんぴょん横を跳ねたり、カヤックの下をブリの大群が通り過ぎたりして、自然を身近に感じる機会も頻繁に遭遇する。


その日は運よく約35センチを筆頭にマガレイ12枚、51センチのヒラメを獲ることができ、食材を確保できたので、昼前に早上がりすることとした。太平洋側は沖は凪いでいても、岸際の波足が長く、いつも出艇時と着岸時に緊張してしまう。今回は着岸時に太平洋側特有の長い引き波に先バウ(先端部)が引っ掛かり、艇が横向きになったとたん、後ろから押し波が来て、波のGをカヤック側部でまともに受けて、本艇初の「沈」を経験した。暖かい日で足がつく場所だったのでダメージは少なかったものの、着替えをもってきていなかったので衣類を濡らしたまま家路につくこととなった。

帰って早速カレイを処理し、京都の甥っ子姪っ子に送った。ヒラメは5枚おろしにして柵を取り、アラで汁を作った。釣ったその日に調理するヒラメは透明感がある上にかなりの弾力で歯ごたえが楽しめる。人によっては5~6日寝かせた方が熟成されて美味いと宣うが、それだけ待てるというのはよほど自制力がある人種なのだろう。釣ってきた日に無眼側の1柵を食い、翌日実家の両親に身の厚い有眼側の柵を進呈、有眼側のもう1柵は出張中のカミさん用に冷凍。今日は釣りブログ界隈ではお馴染みの「スシローのシャリ玉」を買ってきて、無眼側の1柵を寿司にしてみることとする。390円で20貫という安さ。シャリもほどほどにしっとりしていて、受取時間に合わせて作ってくれるのでほんのり暖かく、スーパーで買う鮨よりは美味しくいただける。3日目のヒラメは熟成しきってはいないものの、初日のものと比べてうま味成分を強く感じると同時に、こりこり感は幾分減退し、しっとりとした食感に変化している。ヒラメも50センチを超えると立派なエンガワが取れる。お邪魔する機会は無いが、高級すし屋でエンガワを頼むと出てきそうな寿司もできた。とりあえず柵半分を使い12貫の天然ヒラメの鮨にありついた。古川柳に「知恵のなさ四月鮃の刺身なり」と詠まれている(要は春夏はヒラメの旬ではないことを皮肉った句)。北海道は水温が低いので今時期のヒラメも十分美味しいと思うのだが、如何に。

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