KEF Q350を使い始めてから5年目に突入しました。導入時はレコードプレーヤーを繋いでいませんでしたので、CDのみを聴いていましたが、一昨年DENON DP-500Mを購入してからはCDの出番がめっきり減ってしまいました。KEF Q350はもともとナチュラルな表現を得意とするスピーカーなのでレコードの音との親和性は高いと思います。

昨年の雑誌サライのレコードを聴くためのオーディオ特集では「定番のメーカーから選ぶ、オーソドックスなコンポ3点セット【デジタル時代のオーディオ機器選び-プラン2】」として
【プレーヤー】 ティアックTN-3B-SE
【アンプ】 マランツ PM6007
【スピーカー】 KEF Q350
が選択されていました。偶然にもプレーヤー以外は私のセッティングと同じです。入門機と中級機の中間として紹介されているようでした。機材を選んだ麻倉怜士先生は「スピーカーは、放送局のスタジオモニターなどで定評のある、英国のKEFの普及型を選びました。ウーハーとツイーターを一体化させた2ウェイの同軸スピーカーを採用しているので、低音から高音まで音場が安定し、部屋のどこにいてもいい音で聴けます。まるで楽器から発されるような現実感のある音に感心します。そしてこの価格。個人的に大推薦のスピーカーです」とお褒めの言葉を述べております。
https://serai.jp/hobby/1126845
細々とやっている記録ブログですが、KEF関連記事は需要があるようなので記録しておきます。

レコードは音の情報量がCDよりも多いとされますが、元の情報の質によって音の違いが大きく出てきます。例えば著名なマスタリング・エンジニアKevin Greyがオリジナル・マスター・テープからマスタリングしたHorace SilverのSongs for my father(1965)。レコードはOptimal社による180g重量盤プレスとのことで、聴く前は期待が膨らみましたが、一聴して何となく音に膜がかかっているような印象を受けました。音の好みとも関係してきますが、私は所有する99年リマスタリングのCDの音の方が、この場合は好きです。少なくとも膜がかかったような音ではないような気がしています。雑な想像ですが、これだけの名盤だとマスターテープの出番も多く、1999年にリマスタリングCDを作った時点から、レコードをプレスするまで20年以上経過しているためマスターテープがさらに劣化し、その状態からでは最高の技術をもってしてもオリジナルの音の再現には限界がある、ということではないかと推察しておりますが、真偽のほどは定かではありません。マト番が低いオリジナル盤が高値で取引されているのはそういうことなのでしょう。(札幌のレコード屋でも10万円以上の値がついていたのを見たことがあります)

逆に、唸るほど良い音のレコードも存在します。違いがわかりやすいのが、ダイレクトカッティングのレコードかと思いますが、私は廉価で購入したLee Ritenour のSugar Loaf Express(1977)の音が良くて驚いた記憶があります。この盤はEric GaleがRitenourに請われて参加したことでGaleファンから知られていて、ソロはほとんどRitenourなのですが、要所要所でGaleがギタープレイをアピールする場面があり、聴きどころが多い盤かと思います。Ritenourは非常に技巧的で、驚嘆に値するプレーを見せつけています。当時、倍くらい年の違うGaleのプレースタイルは全然違いますが、一音一音にGale節が込められ存在感があります。帯には「エリックのギターが泣く」と書いてありますが、残念ながら泣きのエリック節はさほどありません(笑)。KEF Q350から、少し音量を上げて鳴らした時は、朝倉先生の言葉を借りると「まるで楽器から発されるような現実感のある音」が出てきて嬉しくなりました。同年、先に発表されていたGentle Thoughtsの方もダイレクトカッティングで、高音質で演奏も緊張感があり素晴らしいです。B面のFeel Like Making Love 等スローな曲では、それぞれの楽器の位置関係がわかるような気になってきます。村上春樹は「ダイレクトカッティングだと、低品質のスピーカーでも非常に音がよく聴こえるので、販売店でダイレクトカッティングのレコードが視聴盤となっている場合は、気を付けなければならない」と最近ラジオで話していました。


KEF Q350は音源のジャンルを選ばない、オールマイティーさも売りのひとつかと思っていますが、ボーカル物が特にきれいに聴こえることも秀でた特徴だ思っています。その意味で、スピーカーの特性が引き出されているなと感じたレコード数枚を紹介したいと思います。

Maria Muldaur (album, 1973)
真夜中のオアシスのマルダーは非常に伸びやかな、時にJoni Mitchellのような高音域の歌声を披露しています。そこに、Amos Garretの天才的なギターリフが入ってきますが、レコードではボーカルとギターの位置関係が見えてくるような音のなり方です。アルバム全体はジャグバンド的なアプローチの曲で占められていて、この曲は毛色が違いますが、日本のCMでも取り上げられマルダーと言えばこの曲、という楽曲となっています。曲の途中でGarretのスライドソロが入りますが、レコードでは音圧が高くよく聴こえますし、Freeboのベースラインもズンズンと聴こえ、マスタリングをかけたCDよりも生の味わいがあるのではないでしょうか。それにしても、バックバンドが豪華ですね。

MuldaurのこのCDから出てくる音も決して悪くはないのですが、レコードの音は格別です。そして、音数が少ない時のQ350の鳴らし分け方は繊細で、聴く者の耳に忠実に音を届けてくれます。

This Could Be The Start Of Something – Mark Murphy (1958)
男性ボーカル物も取り上げましょう。たまたま中古レコード店で目に留まったMurphyのレコード。ジャケットがステキです。Murphyは50枚以上のアルバムを出し、グラミー賞にも複数回ノミネートされた実力者ですが、名盤紹介などの書籍でもあまり見かけません。後年クラブジャズの界隈で再評価されたおかげで、若干知名度を保っているようですが、私は全然聴きこんできませんでした。スキャットやインスト曲を歌うボーカリーズが得意とされ、太い声ながらスムーズな節回しが特徴的とのことです。A面1曲目のタイトル曲から気持ちよくスウィングしていて、盛り上がり方は、ボビー・ダーリンのMack The Knifeに似た質感があります。元々はSteve AllenのTnight Showというトーク番組のオープニングテーマとして知られるようになった曲とのことで、1958年のアメリカのナイトクラブではこのような演奏が聴こえてきたのではないかという想像を掻き立てるようなメロディーです。圧巻はB面でThat Old Black Magic – Cheek To Cheek – Jersey Bounce – Sweet Georgia Brown – Lucky In Love – Hit The Road To Dreamland – For Me And My Galがメドレーとなっています。Bill Holmanの素晴らしいアレンジと、Murphyのテクニカルでスムーズな歌唱で一気に聴かせます。JAZZボーカルの奥深さを感じる、好盤だと思います。CDが無いので比較はできませんが、輪郭がくっきりした高音質録音で、モノラルで左からマーフィーの声、右からビッグバンドの演奏が聴こえて、アナログ盤で持っておいても損はないなという感じでしょうか。昔のボーカルはエフェクトなんてかかっていませんので、生の人間の声をダイレクトに伝えるのにレコードという媒体は秀でてるような気がします。

The Original Soundtrack-10CC(1975)
I’m not in loveが収録されている10CCの出世作です。映画のサウンドトラックを意識したつくりにしたとのことで、曲の雰囲気はバラバラですが、通して聴くと統一感を感じることができるアルバムです。後のBohemian Rhapsodyに影響を与えたと言われるロックオペラのThe Second Sitting for the Last Supperで幕を開け、Life is a Minestroneなどのヒット曲がちりばめられています。ジャケットはヒプノシスが担当し、CD版では見えにくかった凝った意匠がLPだとよく見えて、これもアナログ盤の良いところかと思います。アルバム購入の目的は「アナログでI’m not in loveを、特に48回重ねて録音した冒頭のコーラスループの部分が聴きたい」ということでしたが、やはりLPレコードは格別の味わいがあります。音質云々ということよりも、スクラッチノイズが聞こえる中、あのフェンダーローズのイントロが始まり、48多重コーラスループからのI’m not in loveの歌い出しが聴こえる、その時代の若者が聴いていた音そのもの、という感覚が愛着を増強させます。所有しているCDのリマスタリングが素晴らしく、CD盤には全く不満はないのですが、時代を感じとることができやすい、というある種不公平な要素がLP盤を聴くと加わるので、LPは分が良いです。KEF Q350は忠実に過不足無くそれらの音を表現してくれていると思います。
と、ざっくりとですが、5年目に突入したKEF Q350をアナログで鳴らした場合の印象を記録しておきました。しばらくは個人的アナログブームは続くかと想像していますので、レコードでもよく鳴ってくれるQ350とは長いお付き合いになりそうです。レコード好きは嵌っていくと、ターンテーブルやカートリッジを高級品に交換となるのでしょうが、私はその余裕があればアナログ音源を増やしたいタイプですので、しばしこのオーディオの布陣が続くでしょう。
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