このレコードに収録されているI’m Not In Loveの存在があまりにも大き過ぎて、アルバムとしての影が薄いのですが良い作品です。ロックオペラあり、プログレっぽい曲もあり、オールディーズ再解釈ありですが、一応聞く人のサウンドトラックというコンセプトの体で作られています。A面に針を落とすと、自転車のクラクション、群衆のノイズ、ドアをバタンと閉める音などのエフェクトでOne Night in Parisが始まり、おどけた偽フランス語のアクセントで歌い、4人のヴォーカリストが時にはクイーン、ザッパ、ガーシュウィンをミキサーにかけたようなコーラスを組み、刻々と変化する音像風景を作り出しています。組曲が終わると雰囲気を一気に変えるエレピ音が聞こえ始めます。
I’m Not In Love はイントロが素晴らしいのですが、アナログで聴くと心臓の鼓動にエレクトリック・ピアノがかぶさり、シンセサイザーの音がゆっくりと高まってくる様子がオーガニックに聴こえてきます 。そしてスチュワートが「私は恋をしていない/だから忘れないで/私が経験しているのはただの愚かなステージです」と歌い始めます。ブリッジのところでは、シンセのうねりの上で、200回ほどオーバーダビングされた女性の声(キャシー・レッドファーン)による「ビッグ・ボーイズ・ドント・クライ…ビッグ・ボーイズ・ドント・クライ」とサブリミナル的にテープループさせるシークエンスを挟み込みます。作曲者たちによれば、フィーリングとリズムは『イパネマの娘』にインスパイアされたものとのことですが、あまりそんな感じはしませんね。I’m Not In Love はイギリスのチャートで首位を獲得しましたが、アメリカでのシングル・バージョンは、ヴァン・マッコイの The Hustle、イーグルスの One of These Nights、ビージーズの Jive Talkin’に次々と阻まれ、2位を超えることはできませんでした。同曲はSコッポラのThe Virgin Suicides(1999)など、実際の映画のサントラ(←おすすめです)でも上手に使われていました。ジャケットはヒプノシス作品です。


A1.a Part 1 – One Night In Paris
A1.b Part 2 – Same Night In Paris
A1.c Part 3 – Later The Same Night In Paris
A2 I’m Not In Love
A3 Blackmail
B1 The Second Sitting For The Last Supper
Written-By – Stewart*, Gouldman*, Godley*, Creme*
B2 Brand New Day
B3 Flying Junk
B4 Life Is A Minestrone
B5 The Film Of My Love
A3.Blackmail では、グランジなスライド・ギター、重厚なファルセット・ヴォーカル、ドライヴ感のあるキーボードが際立ちダンサブルな曲に仕上げています。先行シングルB4.も馴染みやすいメロディーでよいのですが、ここはやはりA2.で決まりでしょう。
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