備忘録 猟盤の記録:1975年特集 vol.42 Luminessence: Music for String Orchestra and Saxophone-Keith Jarrett /Jan Garbarek

名作『Belonging』(1974年)録音後にドイツで、ガルバレク+オーケストラによって演奏されたレコーディングです。
Jarrettは作曲のみを担当しており、演奏には参加していませんが、艶やかでミステリアスなガルバレクのソプラノ/テナー・サックスが、Jarrettの旋律を見事に奏でています。

Jarrettはインプロヴィゼーションの巧者として知られており、頂点と評される『The Köln Concert』も1975年に録音されています。本作は、そのJarrett絶頂期のインプロヴィゼーションを譜面化し、サックスでガルバレクが表現するという、かなりアクロバティックな作品です。しかし、オーケストレーションとサックスによる繊細な音作りには、十分な聴きごたえがあります。

旋律には中東的なニュアンスが感じられ、ドミナント的な音像も頻出しますが、最終的には美しい和音が響かせられます。ただし、いわゆるジャズとは異なり、音楽はかなり静的で陰鬱であり、ジャズ特有の脈動を欠いていると言わざるをえません。

American Quartetのサウンドを期待して針を落とすと、面を食らうでしょう。しかし、ヨーロピアン・カルテットの系譜を踏まえると、『Staircase』や『Mysteries』に収録された楽曲の雰囲気と重なる印象があります。
率直に言えば、暗い作品と表現して差し支えないでしょう。ただし、それは意図されたものだと思われます。

さすがアイヒャーによる作品です。録音は非常に良好です。
ECM盤には音質にばらつきがあるものも見受けられますが、本盤はその中でもとりわけ優れた録音となっています。特に、オーケストレーションの豊かなステレオ感と、サックスがリアルに前へと立ち上がってくる音像は見事です。
本作は、楽曲そのものだけでなく、優れた録音を味わうためのレコードとしても楽しめる一枚だと思います。

2023年に、ECMの新しいオーディオファイル向けヴァイナル・リイシュー・シリーズが「Luminessence」と名付けられ、ケニー・ホイーラーの『Gnu High』やナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』といったECMの名盤に交じって、本作も復刻されていたようです。
シリーズのタイトルにも採用されていることを考えると、ECM的な位置づけとしても、本作は重要な作品であるということなのでしょう。

A1 “Numinor” – 13:49
A2 “Windsong” – 6:32
B1 “Luminessence” – 15:23

どの楽曲を聴いても、まず耳に入ってくるのは、陰翳礼賛的な湿り気や謎めいた空気感、そしてマイナー調の響きです。しかし、しばらく聴き続けていると、その奥からかすかな希望の光が立ち現れてくるように感じられます。これは、Jarrettお得意の世界観と言えるでしょう。
では、B1を。

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