Weather Reportの全14枚のアルバムの中でも、本作『Tale Spinnin’』は、日本ではいまひとつ人気が高くない作品ではないでしょうか。直後の作品『Black Market』のジャコ・パストリアス登場で話題をさらい、さらに2年後の大ヒット作『Heavy Weather』によって、ウェザー・リポートの評価が一気に定着した、という印象を持つ方が多いと思います。中古市場を見ても、『Heavy Weather』は球数が多く、供給過剰気味で値崩れしている状況です。大ヒット曲「Birdland」によってメインストリームへ深く浸透した一方で、ウェザー・リポート本来の持ち味であるミステリアスさが、やや薄れてしまったと感じる人がいるのも、理解できるところです。
そうした流れを踏まえると、本作『Tale Spinnin’』は、Weather Reportのディスコグラフィーにおいて、このバンドのひとつの頂点を示す作品だと私は思っています。アルバム全体に通底するストーリー性と統一感が本作を際立たせており、同時に、演奏者それぞれの個性が存分に発揮された、生命感あふれる作品となっています。
前作『Mysterious Traveller』(1974年)でリズム重視の基盤を築いたベーシスト、Alphonso Johnsonが本作でも引き続き参加している点も重要です。そこに、サンタナ・バンドから招かれた手数の多いドラマー、Leon “Ndugu” Chanclerのプレイが加わることで、アルバム全体のコンセプトはより立体的に表現されています。両者のリズム感覚が相まって、本作は非常に味わい深い仕上がりになっていると感じます。
私にとってのウェザー・リポートの大きな魅力のひとつは、「ブルース感の欠如」にあります。StuffやCrusadersなどがブルージーな感覚をひとつの武器としていたのに対し、ジョー・ザヴィヌルはあえてその道を選ばず、ブルースを経由することなく、ワールド・ミュージックの世界へ踏み込んでいく姿勢を貫きました。その離れ業こそが、ザヴィヌルの真骨頂だと思っています。私自身はブルース感のある音楽が大好きですが、それでも、ザヴィヌルがあえてそこに近づかない姿勢には、尊敬の念を抱かずにはいられません。キャノンボール・アダレイ・クインテット時代には、ソウルフルなプレイを存分に聴かせていたザヴィヌルですが、その文脈を、明確な意思をもって排除しているように感じられます。


本作は、ワールド・ミュージックを「それと分かる形」で導入するのではなく、あくまで自然に音楽の中へ溶け込ませているという点において、非常に先取性に富んだ意欲作だったと感じます。地味な作品と評されがちですが、1975年のダウン・ビート誌において最優秀アルバム賞を受賞しており(ウェザー・リポートとしては3作目の受賞)、海外の評論家の中には「本作こそがWeather Reportの頂点である」と評価する声も、少なからず見受けられます。
収録曲
Side A
Man In The Green Shirt(Zawinul)6:29
Lusitanos(Shorter)7:25
Between The Thighs(Zawinul)9:33
Side B
Badia(Zawinul)5:21
Freezing Fire(Shorter)7:29
Five Short Stories(Zawinul)6:56
Wayne Shorter作の2曲も捨てがたいのですが、ここはやはり、元気の良いジョー・ザヴィヌル作のA1「Man In The Green Shirt」を聴いてみたいところです。本作のエネルギーと方向性を端的に示す、象徴的な一曲だと思います。
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