備忘録 猟盤の記録:1975年特集 Vol.49:Vangelis『Ignacio-奇蹟のランナー』

例のごとくにパトロール中、エサ箱の隅からワンコインで救出したのは、ヴァンゲリス(Vangelis)が、世界的な名声を得る直前に手掛けた隠れたサウンドトラック盤でした。

本作は、フランス人監督フランソワ・レシャンバックによる映画のサントラ。恥ずかしながら映画の内容も監督のことも初耳だったのですが、調べてみるとこのレシャンバック監督、あのグルノーブル冬季五輪のドキュメンタリー『白い恋人たち』を撮った方なのだとか。

かつて冬の北海道のスキー場といえば、どこへ行ってもフランシス・レイの『白い恋人たち』のテーマ曲が流れていたイメージがあります。道産子の私としては、知らず知らずのうちにこの監督の映像美に感化されていたのかもしれません(笑)。そんな縁を感じる監督の作品に、若き日のヴァンゲリスが音を付けていたのも、何かの縁と考えたいものです。

1975年当時のヴァンゲリスといえば、リック・ウェイクマンが脱退した後のYESから後釜として熱烈な勧誘を受けていた時期。最終的には加入に至りませんでしたが、あの完璧主義のプログレ軍団からお声がかかるほど、その鍵盤捌きと構成力は当時から突出していたことが伺えます。ヴァンゲリスのサントラといえば、後に大ヒットする『炎のランナー』が有名ですが、個人的には『ブレードランナー』のOSTも外せません。1994年に本人名義で正式リリースされるまで、別名義のオーケストラ版などが「サントラ」として出回るという、複雑な歴史を持つ作品です。私も別名義版のCD・アナログ共に所有していますが、特にトム・スコットが吹く「愛のテーマ」のサックスは、ハードボイルドな哀愁が漂う名演だと思います。

さて、本作『Ignacio』。1979年に日本盤が再発された際の邦題を見て驚きました。その名も『奇蹟のランナー』。 なんと、1981年の『炎のランナー』よりも先に「ランナー」の冠を頂いていたのです。

奇蹟のランナー(本作・1975年)

炎のランナー(1981年)

ブレードランナー(1982年)

……勝手に「ヴァンゲリス・ランナー3部作」と命名してしまいましたが、これはレコード棚を眺めている時にしか訪れない、実にどうでもよくも楽しい発見です。

今回手に入れた日本盤の解説は、肝心のヴァンゲリスの音楽にはあまり触れず、制作元の「EGGレーベル」の成り立ちばかりが語られている不思議な内容でした。

EGGは1969年にフランスのBarclay傘下に設立され、エレクトロ系やプログレ系をリリースしたレーベル。近年のアナログブームで再評価が高まっているようですが、私にとってもこれが「初EGG」となりました。針を落としてみると、期待以上に音が良い。1975年当時のシンセサイザーが持つ、どこか有機的で瑞々しい響きをダイレクトに伝えてくれます。

A面:Entends-Tu Les Chiens Aboyer? part 1 心地よいミディアムテンポが持続する20分。なんとなく炎のランナーを想起させるメロディーラインとシンセの使い方が織り交ぜられています。

B面:Entends-Tu Les Chiens Aboyer? part 2 緩急を織り交ぜながらドラマチックに展開する17分。

大作主義でありながら、初期シンセ音楽特有の「実験精神」と「若きマエストロの叙情性」が同居した、ワンコインとは思えない充実の一枚でした。

フルアルバムの音源を見つけたので、その静謐で壮大な世界観をぜひ体験してみてください。

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