備忘録 猟盤の記録 『星空に迷い込んだ男 – クルト・ワイルの世界』 – Lost in the Stars: The Music of Kurt Weill (1985年)

今年の正月、立ち寄った中古レコード店で、1,480円の値札が貼られたこのアルバムを見つけました。

高校時代、「これ、いいから聴いてみ」とSting ファンの友人が勧めてくれた記憶が不意に蘇りました。しかし当時の私はなぜか食指が動かず、結局レコードに針を落とすことはありませんでした。あれから数十年という時間が経ち、懐かしさも手伝って、気づけばこの盤をレジへと運んでいました。若い頃にはすれ違ってしまった音楽に、年齢を重ねてから再び出会い直す。レコードを掘り続けていると、時折こうした静かな巡り合わせがあります。

当時は気にも留めていませんでしたが、本作のプロデューサーはハル・ウィルナー(Hal Willner)。マリアンヌ・フェイスフル、ルー・リード、ビル・フリゼール、ローリー・アンダーソンといった、一癖二癖あるアーティストたちを束ね、質の高いトリビュート作品を幾つも遺した名匠です。今となっては、彼の名前があるだけで「クレジット買い」をしてしまうプロデューサーの一人になりました。彼が手掛けたディズニーのトリビュート盤『眠らないで(Stay Awake)』(1988年)も本当に素晴らしい作品で、90年代にCDで手に入れて以来、未だに私の棚で存在感を放ち続けています。

裏ジャケットのクレジットを眺めていると、まるで私の長年の好みを熟知して設えられたかのような、あまりにも贅沢な人選に驚いてしまいます。

A1. Steve Weisberg / Intro from Mahagony Songspiel

A2. Sting and Dominic Muldowney / “The Ballad of Mac the Knife”

A3. The Fowler Brothers with Stanard Ridgway / “The Cannon Song”

A4. Marianne Faithfull and Chris Spedding / “Ballad of the Soldier’s Wife”

A5. Van Dyke Parks / Johnny Johnson Medley

A6. Henry Threadgill / “The Great Hall”

A7. Ralph Schuckett with Richard Butler / “Alabama Song”

A8. The Armadillo String Quartet / “Youkali Tango”

A9. John Zorn / “Der kleine Leutnant des lieben Gottes”

A10. Vand Dyke Parks / Johnny’s Speech

B1. Lou Reed / “September Song”

B2. Carla Bley with Phil Woods / “Lost in the Stars”

B3. Tom Waits / “What Keeps Mankind Alive?”

B4. Elliott Sharp / Klops Lied (Meatball Song)

B5. Dagmar Krause / “Surabaya Johnny”

B6. Mark Bingham with Johnny Adams and Aaron Neville / “Oh Heavenly Salvation”

B7. Todd Rundgren with Gary Windo / “Call from the Grave/Ballad in Which Macheath Begs All Men for Forgiveness”

B8. Charlie Haden and Sharon Freeman / “Speak Low”

B9. Van Dyke Parks / “In No Man’s Land”

針を落としてみると、どの楽曲も淀みなく素晴らしいのですが、とりわけ心に沁み入るのはA2、A4、そしてB面の全編でしょうか。 ニューオーリンズの師弟コンビ、ジョニー・アダムスとアーロン・ネヴィルの歌声がソウルフルに、そして深く響き渡るB7。チャーリー・ヘイデンの、あの重く沈み込むようなベースラインがたまらないB9。スティング、トッド・ラングレン、マリアンヌ・フェイスフル、ルー・リード、そしてトム・ウェイツ。これほどまでに個性の強い声の持ち主たちを、一枚のアルバムの空気に違和感なく同居させてしまう職人技。これもまた、ハル・ウィルナーという人のなせる業なのでしょう。

最後に、主題であるクルト・ワイルという人物についても、少しだけ触れておきたいと思います。 『三文オペラ』(1928年)の作曲家として名高い彼は、ユダヤ人であるがゆえにナチス・ドイツの迫害を逃れ、フランス、イギリスを経て、1935年にアメリカへ渡りました。その後、ブロードウェイでミュージカルの創作に情熱を注ぐ中、50歳という若さで急逝しています。

彼が遺した音楽は、時代を越え、今も様々な形で歌い継がれています。「Mack the Knife」はスタンダードとして広く世に知られ(ボビー・ダーリンのバージョンは至高ですね)、ドアーズのカバーで有名な「Alabama Song」、あるいはジャズの定番である「September Song」や「Speak Low」。誰もがどこかで一度は耳にしたことのある、あの少し翳りのある美しいメロディーたちは、彼のペンによるものです。

夜更けに、少しだけ物思いに沈みたい気分の時に。 アルバムの中から、数曲そっと置いておきます。

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